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2016年8月29日18時33分

酔いどれDのリオ五輪外伝その1「ネイマールや吉田沙保里に見る王者のメンタル」

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リオ五輪で金メダルを獲得し、少年のように喜ぶサッカーブラジル代表のネイマール。写真・Getty Images
スポーツ業界で働き、酸いも甘いも知り尽くすベテラン・テレビディレクターが、本サイトで連載中の『酔いどれDの妄想一献“スポーツのある風景”』。今回は、特別編として2016リオ五輪で印象に残ったシーン3つ紹介。1つ目は「王者のメンタル」について。
1番プレッシャーを感じていた選手はネイマール
2016年のリオデジャネイロ五輪に出場した、1万人以上の選手の中で、最も大きなプレッシャーを感じていたのは誰であったか。私はサッカーブラジル代表のネイマールではなかったかと想像する。

世界からサッカー王国と崇められ、多くの選手が世界のプロリーグでトップを張り、あるいは指導者やコーチとしてブラジル人はクラブチームでサッカーの素晴らしさを伝えている。

サッカー王国ブラジルは念願だった金メダルを獲得した。2014年のブラジルワールドカップでは、エースのネイマールが準々決勝のコロンビア戦で、選手生命を心配される深い傷を負った。そして準決勝では、ドイツに完膚なきまでにゴールを叩きこまれ、7対1の惨敗。サッカー王国歓喜の祭典になるはずだったワールドカップは、涙と悲嘆に縁取りされた大きな傷跡となってしまった。

それから2年。リオ五輪の決勝、対戦相手はドイツ。舞台は南米サッカー聖地とも呼ばれるマラカナンスタジアム。ブラジルは、1次リーグで無得点での引き分けなど、決勝までは薄氷を踏む危うい戦いが続いた。

ドイツとの決勝は、延長でも決着がつかずPK戦に突入し、最後の5人目がネイマール。ここまで、主人公が引き立つシナリオは中々お目に掛かれないと思う。ブラジルの至宝が最後のひと蹴りを決めた瞬間、サッカー王国の積年の思いは大爆発した。
永遠の挑戦者だったからこそ
吉田は決勝の舞台に上がれた
一方で、王者としての戦いを期待されながら敗れ去ったアスリートの背中がいくつもあった。改めて五輪という特別な舞台の難しさを痛感した。現在テニス界で、最強であるはずのノバク・ジョコビッチが1回戦で敗れ、悔し涙でコートを去る姿を、誰が想像できただろうか。

長く日本のフェンシング界を牽引し、現役の世界王者として臨んだ太田雄貴も1回戦でブラジルの選手に敗れ去った。

日本選手団の主将・吉田沙保里は決勝で敗れ4連覇を逃した。

五輪開幕前、試合の直前まで、吉田は口を開けば「4連覇、4連覇」と呪文のように唱えていた。レスリング競技が五輪種目から除外されかけた時は真っ先に手を上げて、世界へ存続を訴え続けた。日本選手団の顔である主将の大役を毅然として引き受けた。

世界の頂点に立ち続けるのは、なんと難しい事なのだろうか。本来タックルを中心とした「攻める」事が最大の特長の吉田がリオ五輪の舞台で、王座を「守ること」に必死になっていた。

自らは攻めている、挑戦しているつもりが、何かが少しずつ違う。苦し紛れの首投げは空しく相手にかわされた。試合終了のブザーを、両手をマットについて、ひれ伏す様にして女王は聞いていた。

もしかしたら、吉田は自らが永遠のチャレンジャーでいる為に、競技以外の事、日本選手団の主将や、レスリング五輪競技存続運動にも果敢に挑戦したのではないだろうか。

所属していたアルソックを15年に辞め、レスリング以外のイベントやCM撮影、取材を精力的にこなす。出来うる限りの重圧を自ら背負い、それを4連覇へ向けて戦うバネに変えようとしていた。

心身ともに王者であり続ける事の難しさ。王者の時間が長くなる程、子細な解れ目が瓦解の原因になりかねない。それを吉田は感じていた。だから自らに、これでもかと負荷を課した。

しかし決勝で敗れた…否、決勝で敗れたのではない。だから決勝まで戦えたのだ。

王者であるために、常に挑戦者である事の難しさ。それをリオ五輪の金メダリストたちも、これから痛感していくのだろう。世界屈指の名声と富を得たスーパースター、ネイマールでさえ、勝利の瞬間は少年に戻り、顔をクシャクシャにして号泣したほどに、4年に1度の祭典は特別な舞台なのだから。
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