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2015年6月7日10時00分

~女子サッカー特集~ ワールドカップ優勝から4年 なでしこリーグはどのように変化したのか?

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2011年ドイツの地で優勝した日本女子サッカー代表。 前王者として今年どのような戦いを見せるのか
2011年ドイツの地で優勝した日本女子サッカー代表。 前王者として今年どのような戦いを見せるのか
 文・上野直彦

 なでしこジャパンにとって連覇のかかった女子ワールドカップが、6月6日よりカナダで開幕した。日本は現地時間8日のグループリーグスイス戦から戦いが始まる。さかのぼること4年前、初めて世界を制して日本中が歓喜にわいてから、女子サッカーを取り巻く状況は文字通り‘激変’した。

 代表チームの人気は当然だが、最も変化したのは『なでしこリーグ』の環境だろう。ワールドカップ優勝を果たした2011年は、なでしこリーグとチャレンジリーグの2部制で、計21チームによって運営されていたが、現在では、なでしこリーグ1部・2部とチャレンジリーグの3部制となり、32チームまで規模が拡大した。

 さらにクラブの予算も増大の一途をたどっている。
 リーグ最大の予算規模を誇る『浦和レッドダイヤモンズレディース』を例に挙げると、11年度の運営経費は約5500万円だったが、14年度は約8400万円まで増大している。そのほかのクラブも軒並み2~4倍に予算が増えており、リーグ全体が成長していることが分かる。

 この爆発的な成長を大きく支えたのはスポンサーの存在。数や金額だけでなく、選手の勤務先として生活をバックアップしている企業が多いのが特徴的だ。
 たとえば昨季リーグ覇者の浦和レッドダイヤモンズレディースは、選手10人がスポンサー企業に勤務している。うち2人がユニフォームの胸スポンサーであるPOLUSグループに、4人がサイデン化学に勤めており、ひとつの企業が複数の選手をサポートしているのも典型的な例だ。今季はシーズン中ながらサイデン化学のサポートを受けてオランダ遠征を実施し、貴重な国際経験を積む場も提供された。海外遠征を行うのは、資金に限りのある一般の女子クラブにとって非常に難しく、また珍しいことである。
「浦和レッドダイヤモンズレディース」の胸スポンサー「POLUS(ポラス)」を始め、 スポンサードしてくれている企業が、選手を雇用するというケースが増えている
「浦和レッドダイヤモンズレディース」の胸スポンサー「POLUS(ポラス)」を始め、
スポンサードしてくれている企業が、選手を雇用するというケースが増えている
 そして、浦和と同じくJリーグクラブの女子部として活動している『ジェフユナイテッド市原・千葉レディース』でも、6人がスポンサーであるMS&ADインシュアランスグループの各社で働いている。以前、保育所で朝から夕方まで働きながら練習に通っていたという同クラブの千野晶子は、スポンサー企業で勤務することで「以前に比べてサッカーに費やす時間が確保できるようになった」と、その好影響を語っている。また、チームメイトの櫻本尚子も「入社してから仕事と練習の時間にメリハリがつき、集中して自主トレが行えるようになった」と述べており、選手としてのレベルアップにもつながっているようだ。

 資金面でのバックアップを持たない『伊賀FCくノ一』は、大阪に拠点を置く自動車部品メーカー、エクセディのサポートを受けている。12年から同社とスポンサー契約を結んでユニフォームの胸に社名を掲示しているが、それだけでなく三重県内にあるエクセディの上野事業所に多くの選手が勤務している。昨季は28人の登録選手中25人が同事業所に勤めていた。
 エクセディのサポートにより選手達は8時から14時まで就業し、15時から練習を行えるようになった。これにより生活リズムを整えることが容易となり、コンディション調整にも役立っている。また、エクセディ側にもメリットがある。伊賀FCくノ一の胸スポンサーであることによって会社の知名度アップにつながり、職場の同僚がスポーツを頑張っている姿を見た社員が刺激を受け、帰属意識向上も望めるという。

2部でも人工芝グラウンドなど
整備されているクラブも存在する


 なでしこリーグ1部だけでなく、2部でもスポンサーの存在は重要だ。2012年に活動を開始した『ノジマステラ神奈川相模原』は、その名の通り神奈川県を中心に家電量販店チェーンを展開するノジマの地域活性化や文化振興活動の一環として設立された。11年3月11日に発生した東日本大震災の影響で活動停止に追い込まれた東京電力マリーゼを率いていた菅野将晃監督が、所属チームのなくなってしまった選手の受け入れ先を探していたところ、ノジマが手を挙げた。
 結局マリーゼの移管先はベガルタ仙台になったが、ノジマと菅野監督が一から女子サッカークラブを作ろうと動いたのがきっかけとなった。活動を開始し、1年でチャレンジリーグ(当時2部相当)に昇格し、現在はなでしこリーグ2部を戦っている。ノジマはクラブのために専用の人工芝グラウンドと、クラブハウス、寮を整備し、最高の環境を整えている。選手たちは全員ノジマの正社員として午前中は店頭に立ち、午後練習をするという生活をしている。また、アルバイトではないので、生活が非常に安定していることも特徴だ。

 今季なでしこリーグ1部の強豪INAC神戸レオネッサから移籍してきた田中陽子は、「グラウンドがある敷地内に住むところがあって、クラブハウスやジムがあります。みんな12時まで仕事をして、15時から練習なんですけど、太陽が出ているうちに練習ができて、終わった後にも自主練をできる時間があるので環境はすごくいいです」と、新天地の充実ぶりを喜んでいる。

 もちろん、なでしこリーグの発展はスポンサーの増大だけが理由ではなく、様々な要因が複雑に絡み合っている。その中でも資金面に関する問題を解決に向けて前進させたのが、各クラブやリーグを支援する多くの企業の存在だったというわけ。

 カナダで開催されるワールドカップの後、再び日本で“なでしこブーム”が巻き起こる可能性は十分にある。そのブームを一過性で終わらせず、企業やクラブが連携して継続的にリーグを盛り上げていく体制を整えていくことが、今後の日本女子サッカー界の発展に大きな影響を与えていくだろう。

(プロフィール)
上野直彦(うえの・なおひこ)
AGI Sports Managemet (株) 代表取締役/スポーツライター。
女子サッカーの長期取材を続けており、著書に『なでしこの誓い』(学研)、『なでしこのキセキ 川澄奈穂美物語』(小学館)がある。現在、週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)で好評連載中の初のJクラブユースを描く『アオアシ』で原案・取材担当。女子ワールドカップ2023の日本招致活動に務めている。

※写真・Getty Images
※データは2015年5月28日時点のもの

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