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~体が動かせないハンデを負いながら健常者たちに立ち向かう~

2015年3月1日10時00分

世界に挑戦する車椅子ライダー戸田蔵人
~体が動かせないハンデを負いながら健常者たちに立ち向かう~

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世界に挑戦する車椅子ライダー戸田蔵人
世界に挑戦する車椅子ライダー戸田蔵人
文・太田弘樹(Hiroki Ota)

自分を取り戻すために再びライドを決意
プロモトクロスライダーとして活躍していた戸田蔵人さん。2008年、トップライダーのみが行える事前マシン改良テストの最中に起きてしまった不慮の事故で、胸から下が完全に麻痺してしまい、車いす生活を余技なくされた。医師から「もう歩けない」と宣告されたが、海外での手術を何度も経てリハビリも学び「もう一度歩けるようになる」という思いの元、現在も厳しいリハビリを続けている。そんな中、12年に彼を応援する友人たちの手により、車いすの戸田さんでも乗れるように改造されたバイクでコースに復活。全日本の会場でデモンストレーション走行を披露した。

「バイクに乗れたときは、本当に嬉しかったですよ! 以前のようにバイクの振動は全く感じられませんが“やっぱりこれだな”と思いましたね。でも、再びバイクに乗るなんて絶対に無理だと思っていました。僕自身は車イスも上手く乗れないときもあるし、少しグラグラしたら倒れてしまう。もしマシンが倒れたらどうすればいいのか、どうやって起こすんだろうとか……どう考えても無理だろうと思っていたんです」

プロライダーとしてバイクを乗ってきた戸田さん。怪我をしてからバイクに乗るというイメージはできなかったという。しかし、1つの情報が彼の考えを少し変えた。

「海外で元プロライダーだった人が、車イス生活をしているんですが、松葉づえを使うことで少し歩けるんです。その人がバイクに乗っていたんですよ。それを見て乗ってみようかなと、背中を押された感じがしましたね」

人生の生きがいだったバイク。失ったあとは、自分が自分ではないという感覚に陥ったという。ただ原っぱをグルグル回るだけでも自分が変われるのではないかと思ったのが、始まりだった。

生と死は表裏一体 心を動かすものとは
13年には、全国いろいろなところでデモ走行を披露、戸田さんもそれで満足していた。しかし、転機になったのは同年10月だった。
「米国人の知り合いにアクションスポーツ最高峰の大会X-Gamesの存在を教えられたんです。そこにAdaptive class(※体にハンデ負った人が出られる)というのがあるよと言われたんです。そこから出場する道があるのかを調べましたね。内心はレースに出場できるレベルではないし、無理だろうと思っていたんですよ。でも裏腹ですが、出たいという気持ちもあったんです」

その後、SNSなどを活用して、出場できる方法がないかを探していた中で、繋がったのが日本人初となるX-Games優勝者の東野貴行さん。彼が主催者に推薦出場ができるよう、問い合わせてくれたのだ。

「“出場できるかもしれないので、とりあえず練習だけはしておいてください”と東野君に言われ、出たいという目標ができましたね。レースに出るためにはもう少し、プラスアルファーの何かを考えてやらないといけない、それがジャンプでしたね」

プロのライダーでもジャンプを行うというのは危険なこと、ましてや戸田さんは胸から下が動かいなかでの挑戦だ。

「練習前日の夜は眠れませんね。乗るときは、体をマシンに括りつけているので、もし失敗したら大クラッシュをして首を骨折してしまうかもしれない……楽しみもありますが、すごくリスクがあることです。恐怖心はあります、でも飛ぶときは矛盾していますが、不安を一切消して飛ぶことだけに集中しています」

健常者の時とは、ジャンプをする方法も変わっている。6歳から乗ってきた知識を捨てて、アクセル音を耳にコピーしたという。例えば、これぐらいの音だからエンジンの回転数はこのくらいと思い、その音を頭にたたき込む。そして、ジャンプをする他のライダーと同じエンジン音を出せばこのくらい飛べるだろうと考えた。あとは反復練習をして、音を聞かなくてもジャンプできるようにしていったのだ。

世界最大の大会「X-Games」への扉を開ける
米国遠征では、多くの人が注目するショーに参加。
バイクに乗るときは、足首と太ももをマシンに縛り付ける。
そして特殊なキットを使い、両手だけですべてのコントロールが出来るようにしている
14年大会のX-Gamesに向けて準備してきた戸田さんだったが、開催地の変更によりAdaptiveクラスが無くなってしまい、残念ながら出場する夢は叶わず、15年大会の出場を目指すことになった。そこで新しいものを見つけようと思い、はじめたのがトリック。

「23メートルのジャンプ中に、どこまで空中でマシンを真横に、もしくはそれ以上にできるかという競技「Best whip(ベストウイップ)」というものがあり、東野君が出場し優勝したクラスなんです。自分もそこそこ飛べるようになったので、小さいジャンプで挑戦したらまあまあできたんですよ。それがすごく面白くて! 彼に練習した映像を見せたら“このクラスでも出場を狙ってみましょう”と言われたんです」

この競技、相手は全員健常者でしかもその道のトッププロが出場、そこを目指している。最初は13メートルからスタートし、15、18メートルと距離を伸ばし、大会規定である23メートルを飛ぶことができるようになった。戸田さんはAdaptive class、Best whip、この2つのカテゴリーで推薦を貰えるように練習に励んでいる。

今年1月初旬から約1カ月米国に遠征。知名度を上げる為に、フリースタイルモトクロスショーに参加。約3万人の観衆の中で、自分のジャンプを売り込み無事に帰国した。

全世界のライダーがX-Gamesを目指している。出場は狭き門だが、何度も何度も無理だと思いながら、そのたびに多くを学び、可能性を見つけて、乗り越えてきている。自分を信じ、夢に一歩ずつ近づいている戸田さん、現実になる日はそう遠くないはずだ。
■プロフィール
戸田蔵人(とだ・くらうど) 1980年6月5日生まれ茨城県出身。国際A級プロモトクロスライダー。
2000年、全日本モトクロス選手権IA125ccクラス 総合3位などの成績を残す。08年の6月に合同ライディングテスト中の事故により、胸から下が完全麻痺。現在は、6月に開催するX-Gamesの出場を目指し邁進中
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