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2020年10月14日13時03分

【元サッカー選手 鈴木啓太さん】 元アスリートが語るスポーツの仕事「やる」から「つくる」へ -Vol.29-(後編)

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「“サポーターをもっと幸せにしたい”がビジネスの根源」
元プロサッカー選手、鈴木啓太さんに話を聞きました


~第29回目~
鈴木啓太(すずき・けいた)さん/39歳
プロサッカー選手→起業(AuB)

取材・文/斎藤寿子

28競技700人以上のアスリートの思いが詰まった
サプリメントの開発
高校卒業し、Jリーグの浦和レッズに入団した鈴木啓太さん。リーグ優勝や日本代表選出など、輝かしい活躍をしてきたが、2014年に不整脈を患ったことが引き金となり、15年に引退を決意。17年7月に行われた引退セレモニーには、約2万5000人のファンが埼玉スタジアムに詰めかけ、スタンドはチームカラーの赤で染まった。

「その時のことは、今も忘れることができませんね。現役中、父親に、“オマエは幸せ者だよな。あんなに大勢の人が応援してくれるんだから。オレなんか一番多くて、結婚式だぞ(笑)。その分、苦労もあると思う。でも、嬉しい事と苦しい事の『ふり幅』の大きさが、人生の醍醐味だと思うな”と言われたことがありました。

その言葉を真っ赤に染まったスタンドを見ながら、父親が言いたかったのは“こういう事”なんだと感じましたね。振り返れば、現役時代は自分のことだけだったなって…。もちろん、サポーターへの感謝の気持ちはありましたけど、中心となるのは、やはり結果や自身の目標でした。しかし、16年間プロサッカー選手でいることができたのは、『サポーター』がいたからだと、改めて気づかされました。そして、大きな喜びを与えてくれた人たちをもっと幸せにしたいと思ったんです」

引退後は、自身が興味を持っていた“腸”に関する事業を展開するため『AuB(オーブ)』を設立。まず取り組んだのは、データを取るための検体となるアスリートの“便”収集。しかし、当初はまだ“腸活”という言葉も知られていなかったころ。収集には、苦労もあった。

「突然“便が欲しい”なんていったら、誰だって驚きますよね。“何に使うの?”と怪訝そうな顔をする人がほとんどでした」

そんなとき、鈴木さんはどんな説明をして理解を求めたのだろうか。すると、こんな話をしてくれた。

「アスリートは、“サポーターやファンのためにあるべき”なんじゃないかなって。それこそ、観戦に来る人たちの健康増進に貢献できたら、アスリートにとっても幸せなことだと思います。アスリートの方たちには“これからの時代、試合で感動を与えるだけではなく、どれだけ世の中に貢献していくかが大事になってくる。私は、自身の経験から“腸活”の重要性を多くの人に広め、人生をより良いものにしていってほしいと考えています。だから『便』を提供してくれませんか?″と話しました」

そんな鈴木さんの熱い思いに賛同し、“便”を提供してくれたのはこれまで28競技700人以上にのぼり、4年間で得られた検体は1400を超える。

そのデータをもとに第一弾商品として開発され、昨年12月に販売されたのが、『AuB BASE(オーブベース)』。良好な腸内フローラのベースを作ることをサポートするサプリメントで、累計販売数は1万個に到達するという。

「一気に良くするというよりも、まずは“整える”ことから始めてほしいなと思っています。そのうえで、次に栄養成分のことを意識するとか、段階を踏んでいくことが大切かなと思います。そのベースをつくるために活用してもらえたら嬉しいですね」

また2020年9月には、元五輪選手の腸内環境(腸内フローラ)から、ヒトに有効な新種の腸内細菌(ビフィズス菌の菌株)『AuB-001』を発見したことを発表。今後は、飲食品や健康食品、医薬部外品、医薬品などへ幅広く応用できるものとして、人体への安全面を検証していく。
『人生は一度きり』だからこそ
アスリートはもっと欲張りに
サッカー選手を引退してからは、腸内フローラに関するコンディショニングサポート事業『AuB(オーブ)』の代表取締役として、キャリアを歩んでいる
会社を設立して丸5年。これまでの一番の苦労は何だったのだろうか。

「『AuB BASE』の販売前は、資金調達で非常に苦労しました。10カ月間くらいは、大変な時期が続きましたね。でも、一つの課題をクリアすれば、また次の課題が出てくるもので、一番大変な時というのは、常に“今”ですね。昨年、第一弾商品の発売にはこぎつけましたが、まだまだ事業を加速していかなければいけないので、より責任が重大になってくるなと感じています。でも、それが“やりがい”でもあるんです。父親がいう“ふり幅”ですね」

“人生は一度きり”だからこそ『やりたいと思ったことは、何でもやった方がいい』と鈴木さんは語る。年齢を問わず、失敗を恐れることなく、まずはトライしてみること。もし、成功しなかったとしても、やったことに後悔することはほとんどない。そればかりか、必ず何かを学び、次へのヒントとなる。

そんな鈴木さんの夢は、自らのクラブチームを持ち、世界で戦えるチームに育てることだという。

「特にチームのオーナーにこだわっているわけではなく、単に自分のチームがあったら“面白いな”と思うんです。どんな立場になるかではなく、ファンや地域の人たちが元気に盛り上がれることをやりたいなと。そんなことができたら自分自身が楽しいだろうなと思うんです」

最後に、引退後のキャリアを考えている現役選手に向けてアドバイスを聞いた。

「競技人生がすべてという考えではなく、人生の中の『通過点』だということ。だから、競技人生の中に最終目標を置くのではなく、80歳になった時に、どうなっていたいかを考える。私は20歳の時に、“引退後は現役時代よりも稼げる自分になる”と決めたんです。そうしたら、やることが次々と出てきて、実際に行動に移すように心がけてきました。例えば、サッカー以外の人の話を聞くこともその一つ。それが、今のビジネスにも非常に役立っています。

アスリートは競技のことだけを考えなければいけないとかじゃなくて、もっといろんなことに意欲的に、欲張っていいと思います。自分がやりたいこと、楽しいと思えることをやってほしいです。あとは、その選択を正解にするための努力をするのみです」

自分の選択が正しいかどうかは、その時は誰にもわからない。ただ人生に責任を取れるのは、自分だけ。アスリートにある“チャレンジ精神”は、現役引退後、さまざまなビジネスに活かせるはず。そして、それがスポーツの価値を高めることにつながる。


(プロフィール)
鈴木啓太(すずき・けいた)
1981年7月生まれ、静岡県出身。高校卒業後、2000年に浦和レッズに入団。06年にJ1優勝、07年にはAFCチャンピオンズリーグ優勝に貢献し、2年連続でJリーグベストイレブンを受賞。06年には日本代表に初選出され、07年にはAFCアジアカップに出場。15年に現役を引退。現在は、腸内フローラに関するコンディショニングサポート事業を展開している『AuB(オーブ)』の代表取締役。19年12月には、腸内環境を整えるサプリメント『AuB BASE(オーブ ベース)』を発売。HP:AuB STORE

※データは2020年10月14日時点
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