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2020年9月23日10時45分

【元格闘技選手 大山峻護さん】元アスリートが語る スポーツの仕事「やる」から「つくる」へ -Vol.28-(後編)

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「自分の価値を知ることが”引退後”必ず役に立ちます」
元格闘技選手、大山峻護さんに話を聞きました。photo by 関根孝


~第28回目~
大山峻護(おおやま・しゅんご)さん/46歳
格闘技選手→会社経営(エーワールド)

取材・文/太田弘樹
引退試合は
“殴り合いの勝負”
2000年5月1日に開催された『PRIDE GRANDPRIX 2000 決勝戦』の桜庭和志対ホイス・グレイシー戦を生で観戦した大山峻護さん。桜庭さんがTKOで勝利を収めた瞬間を見て、あのリングに立ちたいという思いが強くなっていき、行動することを決めた。

京葉ガスで柔道を続けながら、週末には格闘技の練習。そして、アマチュアの大会に出場し、優勝するなどの活躍を見せ、格闘技雑誌でも紹介されるようになり、注目を集めていった。

そんな時、トレーニング施設で練習をこなしている大山さんの前にPRIDEの関係者が現れた。大山さんは“将来、プライドに出場するのが夢です”と気持ちを素直に伝えた。そのことがきっかけとなり、01年2月にアメリカの総合格闘技大会『King of the Cage』で、”プロデビューをしないか?”というオファーが舞い込んだ。このチャンスを活かすため、お世話になった京葉ガスを退社。対戦相手マイク・ボークを開始17秒カウンターの右フックで倒しKO勝ち。華々しいプロ人生をスタートさせた。

そこから、約14年間第一線で戦い続け、通算戦績は33戦14勝19敗。負けは多いが、ヘンゾ・グレイシーやヴァレンタイン・オーフレイム、ピーター・アーツなど、トップ選手から金星を挙げる。その後10年には、マーシャルコンバットライトヘビー級王座、そして12年には初代ROAD FCミドル級王座に輝くなど、格闘家として記憶に残る選手となった。

引退は、2014年12月の桜木裕司選手との戦い。

「実は、同年の8月に一慶選手と戦い敗れた時に、引退を決意しました。一慶選手は、元柔道家。いうならば、私と同じ道を歩んだ後輩にKO負け。私の体から“もういいだろう”という声が聞こえた気がしました。妻にも引退を告げ、SNSで発表しました。そうしたら、多くの方から『最後の試合を見たかった』という熱いメッセージをいただき、引退試合をすることになりました。正面から“殴り合いの勝負がしたい”と、それに応えてくれたのが桜木さんでした。最後に試合ができて、本当に幸せでしたね」
大切なのは
自分の価値を知っておくこと
幸せに包まれながら引退した大山さん。しかし、格闘家を辞めた瞬間“心が空っぽ”になってしまったという。

「現役時代から、色々な方に“引退してからの人生ほうが長いんだから、きちんと準備をしたほうがいいよ”と言われていました。しかし、現役の時は、目の前の試合に勝つことだけを考えており、そんな余裕はありませんでしたね。でも実際に引退して、“何をすれば良いのか?”、“どうやって生きていけばよいのか?”本当に分からなくなってしまいました」

暗いトンネルから抜け出せない気持ちを抱いていた大山さん。彼が出した答えは“人に話を聞く”ことだった。

「自分は“40歳にして社会人1年生”。そう自分に思いこませて、プライドを捨てて、様々な経営者の方にアドバイスを聞こうと思いました。そこで、自分の携帯電話に入っている経営者の方に片っ端から電話をし、話を聞きました。これは本当に人生の中で大きかったことです」

そんな日々が続いていた中、大山さんは、精神的に病んでいる会社員が多く、企業にとってメンタルヘルスを巡る労働問題が大きな課題になっていること。加えて、2015年12月より厚生労働省がストレスチェックを義務付けするという情報を知った。

現役時代から同期の仲間である元UFCファイターの吉田善行さんと週に1度、格闘技とフィットネスを融合した『ファイトネス』のスクールを開校している経験があったため、このプログラムで“企業の人たちを元気にしたい!”という新たな目標を持つ。

「『ファイトネス』は、老若男女がゲーム感覚で格闘技を楽しめるプログラムです。風船やうちわなどを使い、体を動かすことを楽しみながら、知らず知らずのうちに格闘技の基本動作が身につくようなメニューから始まり、最後には両手にグローブをつけてもらってミット打ちをしてもらいます。まず、知人の会社で実施できる機会をもらえたので、社員の方にプログラムをしてもらいました。そうしたら、評判がとても良く、それをSNSに掲載したところ、別の企業からオファーが届きました。社員同士が喜びを共有する体験により、心を通じ合わせていく。その風景を見られることが、とても嬉しかったですね」

2015年にエーワールド株式会社を設立。様々な会社へ積極的に営業に行った結果、現在では、100社以上が実施するまでに成長し、元ファイターや現役ファイター約20名がインストラクターとして協力している。成長の理由を大山さんはこう話す。

「当初はファイトネスで“社員の方が元気になる”ことを目的としていました。いわゆるメンタルケア的なものになれば良いなと考えていました。しかし、様々な会社に行く中で、課題がコミュニケーションだと気がついた時がありました。“コミュニケーションが取れない=離職率が上がる”、企業側もそれについての解決策がないという状態だったんです。

私は、このプログラムがチームビルディング(※仲間が思いを1つにして、1つのゴールに向かって進んでゆける組織づくり)にも活用できると考えました。格闘技を利用して、チームビルディングをするという試みも初めてだったので、新鮮味があり、企業側にも受け入れられたと思いますね」
格闘技とフィットネスを融合した『ファイトネス』を100社以上の企業で実施している。photo by 瀬川泰祐
現在は、新型コロナウイルスの影響もあり、ファイトネスの研修をオンラインで実施。その経験を活かし、2020年7月中旬に体を動かすことで心が元気になるという内容をテーマにした『科学的に証明された 心が強くなるストレッチ』を出版するなど、ファイトネスを幅広く活用したビジネスを展開している。

最後に、現役選手に向けてセカンドキャリアに対するアドバイスを聞いた。

「“外の世界の人”と会うことが大切ですね。例えば、柔道なら柔道の関係者としか話さない。それだと、その中の世界で止まってしまいます。だからこそ、様々な人と交流する機会を作り、価値観を変えてほしいんです。私も格闘家として頑張ってきたという自負がありましたが、外の世界に出ると“知らない”という人のほうが多くいました(笑)。でも、そのおかげで、謙虚な気持ちにもなることができました。

一方で、『どうして何万人もいる観客の中で緊張しないで戦えるんですか』、『挫折や大けがをしてもなんでまたリングに戻ろうと思うんですか』とか聞かれ、それを話すと物凄い経験をしてきた人だと、興味を示してもらえます。私たちにとってみれば普通のことでも、一般社会では、貴重な存在になれるということを気づきました。自分の価値を知っておくことが、引退後、必ず役に立ちます」


(プロフィール)
大山峻護(おおやま・しゅんご)
1974年4月生まれ、栃木県出身。5歳より柔道を学ぶ。全日本学生体重別選手権準優勝、世界学生選手権出場、全日本実業団個人選手権優勝。2000年プロの格闘家に転身。12年にROAD FC初代ミドル級チャンピオンに輝く。14年12月に引退した。15年から、企業向けの人材育成サービスを手がけるエーワールドを設立し、格闘技の要素を取り入れたプログラム「ファイトネス」で心と身体の健康を増進するための指導に励む。20年には、一般社団法人「You-Do」を立ち上げ、アスリートと障がい児の子どもたちが出会い、学び、気づき、行動変容のきっかけを普及。『科学的に証明された心を強くするストレッチ』(アスコム出版)が発売中。さらに、『ビジネスエリートがやっているファイトネス ~体と心を一気に整える方法~』(あさ出版)が、10月中旬に発売予定。

写真提供:瀬川泰祐(http://segawa.kataru.jp/

※データは9月23日時点
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