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2019年12月26日16時04分

【元プロ野球(独立リーグ)選手 佐藤宏樹さん】元アスリートが語る スポーツの仕事「やる」から「つくる」へ -Vol.23-(後編)

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「選手が野球をきちんとできる環境を作りたい」
元プロ野球(独立リーグ)選手の佐藤宏樹さんに話を聞きました


~第23回目~
佐藤宏樹(さとう・ひろき)さん/26歳
野球選手→アイリスオーヤマ

取材・文/斎藤寿子

※スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポート戦略における{アスリートと企業等とのマッチング支援}」の取材にご協力いただきました。

野球人生の集大成となった
独立リーグの3年間
順天堂大学を卒業後、四国アイランドリーグの愛媛マンダリンパイレーツに1位指名を受けてプロ野球選手となった佐藤宏樹さん。独立リーグは『最後の挑戦の場』で野球人生の集大成と考えており、その上の日本野球機構(以下、NPB)を目指すことなど考えていなかった。

ところが、テストで佐藤さんの投球を見ていた愛媛のコーチから“もしかして育成だったらNPBを狙えるかもしれない”と、ヤクルトや近鉄でプレーした加藤博人さんに声をかけられた。

「加藤コーチがそういってくださるのなら、もしかして頑張ればいけるのかもしれない。そう思ったのがきっかけで、NPBを目指すことを決めました」

実際、1年目からエースとして活躍した佐藤さんはNPBのスカウトの目に留まり、前期が終わる頃にはドラフト候補選手として注目の存在となっていた。

しかし、夏のアメリカ遠征が体に無理を強いた。試合をすべてこなし、球速も147キロの最速を計測していたものの、慣れない環境での生活もあり、帰国後に体調を崩した。その後、プロのスカウトたちが集まった関東遠征に行ったものの体力が低下し、調子を崩していたため球速は130キロにも届かなかった。

リーグ戦が再開し、後期に入っても調子を取り戻すことができず、結局その年のドラフトでは指名がかからなかった。“来年こそ!”と意気込んで独立リーグ2年目を迎えた佐藤さんだったが、指導者のアドバイスによってフォームを変えたこととケガが原因で、全盛期の投球を取り戻すことはできなかった。

“このまま野球人生を終わらせたくない”と、翌年にもう一つの独立リーグ『BCリーグ』の富山GRNサンダーバーズに入団。最後までNPBへの昇格を目指したが、結果的に球速は戻らずに断念。前期終了時には、現役引退を決意した。

3年間の独立リーグは決して良い事ばかりではなかった。“正直にいえば、苦しいことのほうが多かった”と佐藤さん。それでも“最後は後輩に何かを残したい”という想いで、自分自身ができることを精一杯した結果、チームはリーグ優勝を遂げた。それが何より嬉しく、有終の美を飾ることができたという。

「17年間という野球人生が私の財産です。努力することの大切さや目標を達成するための過程がいかに重要かにも気づかせてもらいました。それは、今後の人生にも活かせます」
“納得するまで続けた”
就職活動
2018年10月に現役を引退した佐藤さん。現在は、アイリスオーヤマに就職し第二の人生を歩んでいる
2018年10月に現役を引退し、すぐに就職活動を開始。しかし、大学時代にも就活の経験がなく、何をどうすればいいのかわからなかった。

「自分が何をしたいのか。何ができるのかさえも考えつきませんでした」

目標が見つからない中で人生の岐路に立った佐藤さんは、知人から紹介してもらった企業の面談を受けたものの、なかなか決心がつかないでいた。それは、納得した理由が見つからなかったからだ。引退を決意した野球仲間たちが次々と就職先を決めていく中、焦りだけが募っていく。

そんな中、救いの手をさしのべたのが、スポーツビズの営業担当者だった。レーシングドライバーの佐藤琢磨さんやカーリングの本橋麻里さんなど、アスリートたちが多く所属するスポーツビズでは、アスリートのセカンドキャリア事業にも注力。セカンドキャリアやデュアルキャリアの講習会を開いており、佐藤さんも現役時代にその講習会を受けていた。そんな縁もあり、次の進路に悩んでいた時に、独立リーグ関係者が紹介してくれたのだ。

その後、担当者からのサポートを受けながら本格的な就職活動が始まった。一番良かったと感じているのは、担当者が単に“就職先を見つけること”ではなく“気持ち”を何より大事にしてくれたことだったという。

「いくつも就職先を紹介していただき、実際に面談にも行きました。でも、担当者の方がいってくださっていたのは『佐藤さんがどうしたいかが何より大事です』というアドバイス。そのおかげで焦ることなく、じっくりと自分が納得するまで就職活動を続けることができました。その結果、心の底から“ここで頑張りたい!”と思えるアイリスオーヤマさんと出会うことができました」

自分に何ができるかはわからなかったが、やはりスポーツに関わる仕事がしたいという気持ちがあった佐藤さん。アイリスオーヤマの選んだ理由は何だったのか。

「僕がNPBを目指すようになったのは、大学時代の恩師をはじめ、独立リーグでお世話になった監督やトレーナーさんなど、良い指導者がいたからです。そうした環境が”選手の力を引き出す”ということを経験したので、選手たちのための環境づくりに携わりたいという思いがありました」
少子化の影響で廃校となった小学校を地元の野球チームの練習場にする事業ができないかと考えている佐藤さん。野球の経験が現在の仕事にも活かされている
アイリスオーヤマは、2019年からスポーツ施設事業に参入し、競技場の照明や人工芝、ベンチなどハード面の環境整備を展開。さらに、NPBの東北楽天ゴールデンイーグルスやJリーグのベガルタ仙台など、チームやイベントなどのスポンサードにも力を注いでおり、日本スポーツ界に還元しようとする企業の姿勢が、大きな魅力として映った。

将来的にはハード面に限らず、スポーツ環境をより良くするために幅広く携わっていきたいと考えている佐藤さん。そうした可能性の大きさを感じたことも入社する決め手となった。例えば、少子化の影響で廃校となった小学校を、地元の野球チームの練習場にする事業ができないかと考えている。

「地方の公立高校では、新しく室内練習場を設立することは厳しく、少ない室内練習場の取り合いが起きているんです。冬などの季節に練習することができない野球部も多い。そこで、最近では各地方で問題化している廃校となった小学校の再利用と結びつけて、体育館を室内練習場にできないかなと。人工芝を敷いて、防護ネットをつければ、立派な室内練習場になりますからね」

社員として、今年の5月から働き始めた佐藤さん。現在は、BtoB事業グループスポーツ施設MS首都圏に所属し、スポーツ施設のハード面の営業として働いている。その表情は、野球選手だった時と変わらずイキイキとしている。

そんな彼は、自分と同じように独立リーグで“最後の挑戦”に臨んでいる後輩たちに向けて『出会いの大切さ』を説く。

「独立リーグでは地域貢献活動として、学校や商店街などに行って、地元の方と触れ合う機会が多くあります。今思えば、それがすごくいい経験になっているなと。正直、現役時代は『練習がしたいのに』と思ったこともあります。でも、ふだん会うことのできない幅広い年齢や職業の方とお話することで、自然といろいろな知識を得たり人脈ができる。それが今、すごく役に立っているなと実感しています。小学校の廃校問題を野球環境と結びつけて考えられたのも、出会った方とのつながりなんです」

“野球人生で培った力を活かし、スポーツ界に恩返ししていきたい”と語る佐藤さん。第二の人生は、長い野球人生の延長線上にあると感じている。


(プロフィール)
佐藤宏樹(さとう・ひろき)さん
1993年6月生まれ、千葉県出身。順天堂大学を卒業後。2016年、四国アイランドリーグ・愛媛マンダリンパイレーツに入団。18年4月にBCリーグ富山GRNサンダーバーズ入団するも10月に引退。2019年5月より、アイリスオーヤマに入社。現在は、現在は、BtoB事業グループスポーツ施設MS首都圏に所属。

※データは2019年12月26日時点
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