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2019年10月17日13時40分

スポーツの動画制作 野村志郎さん「考えることが好きで“ゼロイチ”を生み出す力が重要です」(後編)

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知りたい!就きたい!スポーツの仕事
連載22回目〜スポーツの動画制作編〜
猿人クリエイティブディレクター野村志郎さんに話を聞きました


2020東京五輪に向け「スポーツ業界で働きたい!」と思っている学生や転職を希望している人が多くなる中、仕事の実際を知ることが意思決定には重要となる。そこで、スポーツを仕事としている人にインタビューし、仕事の“あれこれ”を聞く。

猿人
クリエイティブディレクター 
名前:野村志郎(のむら・しろう)さん
職業歴:2012年〜

仕事内容
・社会や顧客の課題を解決するクリエイティブ開発
・企業のブランディング
・映像制作・広告制作

取材・文/佐藤主祥

前編はこちらから

写真に埋め尽くされた
“空間の演出”


2018年1月に2020年の東京五輪・パラリンピックのゴールドパートナーである野村ホールディングスが実施する活動の一環で、自分を乗り越えることに挑む7名の物語を描いた動画『みんなの自己ベスト|My Personal Best』を制作した猿人の野村志郎さん。

今年の4月には、スポーツ動画の第2弾として、バレーボール女子日本代表チームを率いる中田久美監督が出演するドキュメンタリームービー『Unfinished Games -終わりなき挑戦-』を制作・公開した。

この作品では、15歳での日本代表デビューからバレーボール女子日本代表監督としての現在に至るまで、人生の中でターニングポイントとなった4つの試合を自らが振り返り、東京五輪にかける想いを伝えている。

野村ホールディングスが全日本女子バレーボールチームのオフィシャルスポンサーであることから、この企画が実現。実際に企画・制作した野村さんは、中田監督の印象についてこう話す。

「知れば知るほど魅力的で、本当にドラマチックな人生を送っている方だなと思いましたね。というのも、全日本女子バレーって、1964年の東京五輪で金メダルを獲得してから4大会連続で銀以上のメダルを取っていて、特にその64年大会でのソ連との決勝戦は、平均視聴率が66.8パーセント。スポーツ中継番組では今でも歴代1位。“超栄光の歴史”があるわけです。

でも中田さんが出場された五輪からは少し苦しい時期に入っていて。初出場の84年のロサンゼルス五輪では銅メダルを獲得しましたが、その後のソウル大会、バルセロナ大会では表彰台に上ることができなかった。でも来年の東京五輪では、代表の監督としてメダル獲得を公言されている。そんな中田さんの人生を聞いた時に、すごく『ストーリーがあるなぁ』と感じたんです。日本女子バレー界の歴史と、中田さんの苦闘の歴史を伝えることで、見ている方にバレーボールを応援したい気持ちになってほしいです」

映像における表現方法として採用したのは、人生のターニングポイントとなった試合の写真で埋め尽くされた空間を演出するという、クリエイティブな手法だ。写真を見ながら当時の試合のことを思い出している中田監督の表情を見るだけで、見る側も想像力を掻き立てられる。出演者と視聴者が一緒になって日本女子バレーの歴史を辿っていく、そんな不思議な空間が映像の中にはあった。

「15歳の試合となると30年以上前のことになるので、細かい出来事や感情は覚えていないかもしれません。だから当時の写真で埋め尽くされた空間を作ることによって、ご本人の記憶の中を再現するというか。自分の頭の中をめぐる旅をしてほしいな、と。例えば、写真を見て“あの時はこんな気持ちだったな”とか、“このシーンは私がミスしてこうなっちゃったんだよね”とか。その時の鮮やかな記憶、忘れかけていたエピソードが蘇って、本人が思っている以上の感情が出てくるかもしれない。それってすごく面白いじゃないですか!

だからあえて企画の詳細は伝えず、『インタビュー映像を撮らせてもらいます』というお話だけをしていたんです。サプライズというか、できるだけ先入観がない状態で会場に入っていただいて、この空間を見て“ワッ!!”って驚く表情を撮りたかったんです」

1対1のインタビュー形式でもなく、当時の試合映像を流すわけでもない。写真が飾られた空間を歩きながら思い出を語っていくという、今までにないさらに一歩踏み込んだ手法を選んだ野村さん。だからこそ、思わず見入ってしまう、そんな作品が生まれたのだろう。
“そもそも”から掘り下げることが
名作の誕生につながる
中田久美さんが出演するドキュメンタリームービー『Unfinished Games -終わりなき挑戦-』を制作
中田監督は前述した通り、来年の東京五輪でのメダル獲得を公言している。それは現役時代に味わった悔しさ、出場した3度の五輪で金メダルに手が届かず、周りの期待に応えられなかった苦悩があったからだろう。だが、それだけではない。動画内で中田監督は、以下のようにコメントしている。

‐私は五輪で3回折れている。でもべつに金メダルが欲しいわけじゃない。可能性にチャレンジする面白さ、それがあったからここまで頑張れたと思うんです‐

この言葉を聞いた時、野村さんは“なるほど”と納得した表情を浮かべていた。

「メダルを目指すのはもちろんですけど“モノ”としてのメダルが欲しいわけじゃないんだなって。メダルという可能性にチャレンジし続ける楽しさ、そこに生きがいを感じている。中田さんの言葉を聞いて、挑むこと自体がモチベーションだということが分かりましたね」

そういったチャレンジャー精神やアイデアを生み出すまでの過程を楽しみ、考えることが好きな気持ちは、猿人のような“モノづくり”を仕事とする上で大切だと語る。

「表現方法は何でもいいですし、どんなアイデアを生み出しても構わない。純粋に考えることが好きだったり、その作品で人を喜ばせることを生きがいだと思える、そういう人はぜひ弊社に来てほしいですね。あとは、どんな些細なことでも知りたいという、好奇心旺盛な人もこの仕事には向いているかもしれません。例えば、スポーツを題材に企画を考える時、『そもそもスポーツって何だっけ?』とか、『五輪ってどういう大会だっけ?』みたいな。当たり前なことかもしれませんけど、そういう“そもそも”っていうところから掘り下げていくことで、結構いい企画が生まれたりすることもあります。

何事もそうですけど、聞いた情報と知っている情報だけで考え始めるのではなくて、そこからさらに新しい情報を探っていくことは大事なこと。僕らのような仕事は、新しいのものを生み出すことが仕事なので、同じになることは2度とありません。どの案件もオーダーメイドで作り上げる感じなので。だから過去にやった仕事と似たような案件がきても、前の作品を参考にすることは決してありません。既製品を作るのではなくて、あくまでオーダーメイド。『こっちの方がいい作品を作れるだろうな』と少しでも思ったら、どんなに面倒なことでもやります。それが僕らが持つ“モノづくり”へのこだわりです」

『1→2』ではなく、つねに『0→1』を生み出すことを心掛けている野村さん。

その企業や人物、今回ならスポーツというそれぞれの題材において、何が一番魅力を引き出し、見ている人に伝えたいメッセージを届けられるか。あの手この手で最適解を探りながら、全力で“モノづくり”を続けている。

※データは2019年10月17日時点
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