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2019年7月26日15時21分

「仕事と競技の両立には“大きな価値”がある。だから前向きに選択してほしい」アスリートのデュアルキャリア フットサル選手 大徳政博さん(後編)

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フットサル選手、大徳政博さんに話を聞いた


2020年、リトアニアで開催されるFIFAフットサルワールドカップ(W杯)。2019年6月初めには日本代表候補合宿が福島県で行われ、本戦に向けて着々と準備が進められている。そんな中、初の代表入りを目指す選手がいる。昨シーズンまで、Fリーグの湘南ベルマーレでプレーしていた、大徳政博さん。

彼は国内3チームに加え、フットサルの強豪国であるブラジル・パラナ州1部リーグでのプレーも経験。そして今年5月には、イタリア・セリエA2のレッジョエミリアへの移籍が発表された。同リーグのシーズンが開幕する7月まで、アンド・フーズ・ウィズという会社で働きながら個人で選手活動を行なっている。今回は、そんな大徳さんに現在に至るまでの選手人生を振り返ってもらいながら、どのようなデュアルキャリアを実践してきたのかを伺った。

取材・文/佐藤主祥
“学ばざるを得ない”環境を作ることが
短期間での成長につながる
2019年7月からイタリア・セリエA2のレッジョエミリアへの移籍が決まり、それまでは同年4月に入社したアンド・フーズ・ウィズで社員として働くことになった大徳政博さん。

仕事の内容としては、同社が運営する最高級A5ランク黒毛和牛を贅沢に詰め込んだ“もとむのカレーパン”を販売する店舗出店の企画・実施・イベント運営のサポートを行っている。

沖縄・那覇空港から車で約15分の瀬長島西海岸に位置する、癒しと感動のアイランドリゾート『瀬長島ウミカジテラス』での店舗出店に向け、銀行からの資金調達や事業計画・収支計画の作成といった業務に追われる毎日。“社員”として、仕事を任されている大徳さんだが、デュアルキャリアの経験があるとはいえ、本格的にビジネス業界で働くことに対して苦労はなかったのだろうか。

「プランニング業務の経験があるわけではないんですけど、はじめから普通の社員同様、収支計画であったり資金繰り計画表であったり、チームの一員として、助けていただきながら、私のすべきパートをしっかりこなしています。でもそれがすごく良くて、私の性格的に“やらざるを得ない環境”で仕事をした方がやりやすい、というのはありましたね」

2018年2月から半年間プレーした、ブラジルという異国の地での生活スタイルこそ、大徳さんがいう自身の『性格』を現している。

「ブラジルにいった時、実はあえて通訳をつけずに半年間過ごしました。何故かというと、その方が短期間で確実に言葉を覚えられるからです。もちろん最初は周りが何をいっているのか分からないので、めちゃくちゃしんどかったです。でも、その状態でだいたい2カ月ぐらい過ごしていけば、そこから先は普通にブラジル人選手とコミュニケーションを取れるようになって、すごく充実した日々を送れるようになったんです。通訳をつけないことによって言葉を“学ばざるを得ない”状況にする。その方が私にとって、良いことだなって思うんです」

4月に入社した大徳さんにとって、正社員として勤務する期間は、イタリアに飛び立つ7月までの3カ月。その中で、仕事を覚え、本格的に案件を任せてもらうには、研修期間を経てからでは時間が足らない可能性がある。だからこそ、はじめから実践的なスキルと経験を積むことができるアンド・フーズ・ウィズの仕事環境は、大徳さんにとって最適な“フィールド”だった。

「長期的なプロジェクトに携わっても、中途半端な形で退職することになる。だから3カ月で完結する仕事を任せてもらえたことは本当にありがたかったですね。しっかりと今の仕事を成功させて、スッキリした気持ちでイタリアに向かいたいなと、そう思っています」
デュアルキャリアは
マイナスではない
7月で完結するプロジェクトの達成に向け、忙しい日々を送っている大徳さん。短期間なため、集中して仕事に取り組んではいるが、本業であるフットサル選手としての活動に当てる時間は作れているのだろうか。

「もちろん練習は毎日欠かしていません。1日のスケジュールとしては、基本的に午前中はトレーニングをする時間に当て、午後から出社して仕事をしています。練習に関しては、1人でトレーニングすることもあれば、担当のトレーナーの方に見てもらいながら行うこともありますね。

加えて、月に2〜3回は仕事でフットサルのイベントにゲスト参加しています。本格的な試合とは違いますが、多くの人と一緒にボールに触れる機会というのはそういったイベントぐらいしかないので、とても大事な時間です」

チームに所属していないとはいえ、3カ月もの間、第一線から離れてあまり試合感がない中でイタリア挑戦に臨むのは、選手としては不安を抱くはず。しかし、大徳さんは現在の自分の状況に対して前向きに捉えており、逆に“選手としてプラスになる”と話す。

「試合に出場しないというのは、もちろんリスクが伴うことなので焦りもあります。ですが実際にフットサルから離れてみて“ボールが蹴りたくてたまらない”という感情に気がついたんです 。やはり毎日のようにフットサルをしていると、それが当たり前になってしまって、ボールを蹴ることに対して『楽しい!』という気持ちを忘れることがあるんです。

実際、試合に出ようと思えばアマチュアのチームに参加するという手段もあります。でもあえて、ボールを蹴らずに体づくりだけに徹する期間にする。そうすることにより、フットサルに飢えている状態で挑戦することができるので、より良い成績を残せるんじゃないかと思ったんです。楽しく試合をする方が、いい結果につながりますからね」

フットサルのことについて話している時の大徳さんの表情は明るく、充実感に満ちあふれている。そんな彼を見ていると、仕事と競技の両立という選択肢は、必ずしもネガティブなことではないと感じさせる。

「デュアルキャリアというのは、マイナースポーツの選手にとってはいい選択肢ですし、すごく価値があることです。例えば、その仕事が競技の技術向上に影響するかといえば、ほぼ100パーセントないでしょう。でも、私の場合は、事業計画作成の経験を積むことで“2020年のW杯に出るためには、どういう行動をし、どれくらいの結果を残せばいいのか?“というような人生計画の作成に役立っています。

逆に仕事にも、フットサルを通じて企業間での知り合いが増え、何かしらの仕事につながったりしているので、競技者としてのキャリアが活かされている部分は多々あります。そういった両業界での経験や繋がりは、引退後のセカンドキャリアに必ず重宝します。だから“競技生活だけじゃ食べていけないから仕方なく働くか…”ではなく『多くのメリットを得られる仕事』を選択してほしいです」

競技だけで十分な収入が得られないマイナースポーツのアスリートはたくさんいる。中には日々、将来に不安に感じながら生活している選手もいるだろう。しかし、大徳さんは『今の仕事で得た経験は、第2の人生に必ず役立つ』と、将来に対する"不安"を"期待"に変えている。こうした意識の持ちようだけで、引退後の未来は、より良い方向へ変わってくるのではないだろうか。
最後に、自身のキャリアでやりたいことを聞いてみた。

「もう、いっぱいあるんですよ(笑)。例えば、実はブラジルに行く前にMD-Next(エムディーネクスト)という自分の会社を立ち上げていまして。アパレル製品の企画・販売や、チャリティイベントの運営・管理などを行っていたんです。でも急遽ブラジル行きが決まったので、その後は何もできていないのですが、今後はこの会社でいろんな事業をしていきたいと思っているんです。

その中で、1番やりたいのが代理人業。僕自身、ブラジルに行き、これからもイタリアで経験を積むことになるのですが、これから出てくる若い世代にも海外への道を拓かせてあげたい。そういう想いが強くあるんです。日本フットサル界の発展につながりますし、ずっとお世話になっている競技ですから、これから少しずつ自分の活動を通じて恩返しをしていきたい気持ちもあるので。

あとは政治にも興味があって。僕が生まれ育った浦安や、選手としてお世話になった湘南などで市議会議員になって、より良い街づくりに貢献していきたいな、と。こうして挙げるだけでもやりたいことがたくさん出てくるので、自分のキャリアに対しては不安というより、むしろ楽しみの方が大きいですね(笑)」

大徳さんのフットサル選手としてのこれから、そして“その先”に対しても楽しみで仕方がない。そう感じさせられてしまうほど、彼は有意義な“デュアルキャリア生活”を送っている。この競技や仕事に対して、そして引退後の未来に対しても前向きな姿は、きっと、今後のデュアルキャリアに挑むアスリートの考え方に変化をもたらすだろう。


(プロフィール)
大徳政博(だいとく・まさひろ)さん
1992年1月生まれ、千葉県出身。高校を卒業後、府中アスレティックFC(現立川・府中アスレティックFC)でフットサル選手のキャリアをスタート。大学に進学するも休学し、バサジィ大分に入団。その後、湘南ベルマーレ、ブラジル・パラナ州1部リーグのアイモレフットサル・マテランジアでプレー。2019年4月にアンド・フーズ・ウィズに入社。7月からはイタリア・セリエA2レッジョエミリアでプレーをすることが決まっている。

※データは2019年7月26日時点
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