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2019年3月15日15時28分

産業機械メーカーの『ヤンマー』が 女子サッカーのキャリアサポートを開始した理由とは?【前編】

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ヤンマーホールディングス人事部部長の神原清孝さんに話を聞いた


日本代表する産業機械メーカーのヤンマーが2018年度、新しい取り組みをスタートさせた。同社がスポンサードする女子サッカークラブ『セレッソ大阪堺レディース』(以下、堺レディース)は2012年に創設され、高校生、大学生を中心とするメンバー26人が所属(2018年12月現在)。チームの大学生2人をヤンマーのトライアルインターン生として2018年8月に迎え、1週間の就業体験の場を提供。

アスリートの『セカンドキャリア』や『デュアルキャリア』が叫ばれる中、不足している女子サッカー選手のキャリアサポートが最大の目的。果たして、実際インターン生を受け入れたことによる効果はどのように表れたのか。ヤンマーホールディングス人事部部長の神原清孝さんにインタビューをした。

取材・文/斎藤寿子

新しいアイデアや企画を生み出した
チャレンジ精神
2018年は、『なでしこリーグ』(日本女子サッカーリーグ)の1部に所属した堺レディース(2019年は2部)。所属する26人の選手のうち19人が、下部組織である『セレッソ大阪堺ガールズ』や『セレッソ大阪堺アカデミー』出身と生え抜きの選手が多い。最年少の中学3年生を含み全員が10代後半から20代前半と非常に若いチーム。

そのチームが選手の将来を見据え“インターン制度を活用して選手たちのキャリアサポートをしてもらえないだろうか”とヤンマーに依頼した。

男子のトップリーグ『Jリーグ』は、完全なプロリーグであり選手たちはサッカーに専念することができる環境にある。一方、女子のトップリーグ『なでしこリーグ』は完全なプロリーグではない。プロ契約できる選手はほんの一握りで、ほとんどが仕事と両立をしながら競技生活を続けており、未だに厳しい環境下に置かれているというのが現状。そんな中で、このような新しいサポートがスタートを切ったため、注目が集まっている。

2018年度は、堺レディースに所属する大学3年生の玉櫻ことの、古澤留衣の2人をインターン生として迎えた。その狙いについて、神原さんはこう説明する。

「話を聞くと、子どものころからずっとサッカー中心の生活で、大学生となった今も授業を終えて練習に行き、遅くに帰宅して一日が終わるということでした。アルバイトも一度も経験したことがないようです。そうすると、働くというイメージがなかなかわかない。そこで、いきなり難しい作業をしてもらうというよりは、まずは会社の雰囲気を感じてもらうことと、会議などで社員と触れ合ってもらう。

そうすれば、彼女たちにとって貴重な体験になるでしょうし、会社側としても男子サッカーチームのセレッソ大阪だけでなく、堺レディースにも社員に関心を持ってもらうきっかけになると考えました」

1日の勤務時間は正社員と同じ、9時~17時40分。夕方からの練習が休みのオフシーズンである8月に1週間の就労体験が行われた。2人の配属先はそれぞれ総務部と人事労政部。総務部に配属となった1人は、会議や内定者交流会の準備・運営を手伝ったり、堺レディースへの関心を高めるための施策を自ら考え、プレゼンすることもあった。もう1人は、人事労政部に配属となり、内定者交流会の準備や企画会議に出席した。

「選手として培ったチャレンジ精神があるからこそだと思うのですが、これまでにはないアイデアや面白い企画も出してくれました。例えば、内定者交流会では『ヤンマーがスポンサーとなっているセレッソのマスコットキャラクター”ロビー”(通称)を描いてみてください』というお題が出されたのですが、思わず笑ってしまうようなイラストもあったりして、非常に盛り上がりました。大学の授業でやっていたことを応用したようですね」
双方にとってプラスとなった
インターン制度
(写真左から)古澤留衣、玉櫻ことのがインターンシップ生として1週間の就労体験を行った©CEREZO OSAKA SPORTS CLUB
一方、選手側の反応も非常に良かったという。1週間のトライアルを終え、感想を聞くと、“ヤンマーという会社が、より好きになりました”“社員として、この会社で働きたいと思いました”という嬉しい声が聞かれた。神原さんは、

「仕事では2人とまったく関わりのない部署の社員も、彼女たちに寄って行って、よく話しかけていました。たいした用事はないんですけどね(笑)。でも、もともとフレンドリーな雰囲気がある会社ですので、そういうところを気に入ってくれたのかもしれないですね。また、2人はアスリートですから、挨拶や返事が非常に元気で、爽やかです。ですから、社員たちも話しかけやすかったのだと思います」

一方、アルバイトさえも経験したことがない選手たちをインターン生として迎える中で、会社側にとっての苦労はなかったのだろうか。すると、意外な答えが返ってきた。

「こちらが苦労するということは、皆無に等しいくらいなかったですね。働く経験はなくても、アスリートとしての規律正しさがありましたから、まったく問題はありませんでした。特に彼女たちはスポーツ推薦ではなく一般試験で大学に入り、普段はきちんと授業を受けたうえで、練習をしている選手です。サッカーが生活の中心だった中でも、きちんと勉強をして受験をし、現在は大学に通っているわけですから、それだけ強い意志がある。時間の使い方もうまいんでしょうね」

また、堺レディースの選手をインターン生として迎えたことで、会社側にプラスとなったこともあったという。神原さんによれば、男子のセレッソ大阪の応援にはほぼ全試合行くほどの熱狂的な社員もいる。一方、堺レディースは、未だ社内で充分に浸透されていないという。それがスポンサー企業としての悩みの一つだが、今回のインターンで、チームへの関心は確実に広まりを見せているようだ。

「やはり直に選手と触れ合うと、興味を持つんでしょうね。インターン制度を終えて、彼女たちを応援に行く社員も増えてきて、盛り上がりを見せています」(前編終わり)

※データは2019年3月15日時点

※スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポート戦略における{アスリートと企業等とのマッチング支援}」の取材にご協力いただきました。
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