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2019年3月12日19時22分

元アスリートが語るスポーツの仕事「やる」から「つくる」へーVol.18ー元サッカー選手 添田隆司さん(後編)

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「選手から経営側に進む道のりは決して遠回りではない」
元サッカー選手、添田隆司さんに話を聞いた



〜第18回目〜
添田隆司(そえだ・たかし)さん/25歳
サッカー選手→おこしやす京都AC代表取締役社長

添田隆司さん記事前編

取材・文/佐藤主祥

“Jリーグ入りのノウハウ”を活かす
J3の藤枝MYFCや関西サッカーリーグ1部のアミティエSC京都(現・おこしやす京都AC)でプレーし、2017シーズンを持って現役を引退した添田隆司さん。

東京大学運動会ア式蹴球部(サッカー部)からプロの世界に飛び込み、『史上2人目の東大卒Jリーガー』として、選手兼任社員で加入。3年間の現役生活は、選手と仕事を両立する“デュアルキャリア”を体現し、競技力を高めながらスポーツビジネスも同時に学んだ。ユニホームを脱いだ後は、一体どのような活動をしていったのだろうか。

「引退後は、引き続きアミティエSC京都のクラブスタッフとして働いていました。同時に、藤枝MYFCの小山淳社長が、2017年10月に設立したスポーツXの社員としても仕事をするようになったんです。社長には、自身の“スポーツ事業を再構築したい”という想いもあり、1年間で世界40カ国ぐらいの国々に視察へと連れて行っていただきました。

例えば、ドミニカ共和国にあるメジャーリーグ球団のアカデミーに視察に行ったり、ケニアのコロゴチョスラムという最大規模のスラムにあるアフリカ最強と称されるアカデミー『ACACORO ACADEMY』に行って、施設をどのように運営しているのかを勉強したり。スポーツビジネスにおける経営学をたくさん学ぶことができました」

数々の国でクラブ経営に関する知識を身につけた添田さんは、2018年7月からスポーツXの取締役に就任。全社の事業企画・経営企画を担うようになった。会社が取り組むスポーツ領域での事業について、添田さんはこう説明する。

「我々には2009年に設立した藤枝MYFCを、創業会社として史上初となる史上最速の5年でのJリーグ入りを達成させた、というクラブ経営のノウハウがあります。

簡単に説明すると、普通は地域リーグからJリーグに上がるまでには平均10億円かかるのですが、藤枝MYFCは4億円程度でJ3に昇格することができたんです。その中で、獲得した選手に120パーセントの力を出してもらうために様々な施策を打ち、実際に試合でパフォーマンスを発揮してもらうことで、費用対効果を高めることができた。それが平均よりも低い資金で昇格へと導けた理由です。

その知見を標準化して、事業のひとつであるプロスポーツクラブの創設・育成、監督やクラブ経営者といったリーダー人材の育成につなげていく。これが弊社の取り組むミッションです」

2018年12月には、スポーツXが手がける2例目のクラブ『おこしやす京都AC』の代表取締役社長に就任した添田さん。現役時代にアミティエSC京都に移籍する際、小山社長から“将来的にはこのクラブの社長になってほしい”という意向を伝えられていたという。

「社長から頼まれたら断れないので(笑)。そこはある意味諦めたといいますか、すぐに気持ちを切り替えることはできたと思います。ただ、やらせていただくからには結果を残さないといけないので、そこは責任を持って取り組もうと心に決めましたね」

就任したばかりではあるが、おこしやす京都ACの代表としてはどのようなミッションを掲げているのだろうか。

「まずスポーツXとしての役割では、前述した通り、藤枝MYFCでの経営で培ったノウハウをおこしやす京都ACにも活かし、結果を残すということ。例えば、クラブを強くするためにはどういう視点で考えればいいのか、補強の際はどの選手にどのタイミングでアプローチすればいいのか。そういった部分を可視化し、誰がやっても一定のクオリティを出せるようなマニュアルを作っていきたいと思っています。

クラブのミッションとしては、やはり2018シーズンに達成できなかったJFLへの昇格。そして、いずれはJ3、J2へとステージを上げていくことが目標です。そうなれば、クラブ経営のノウハウがさらに蓄積されていくので、3クラブ目、4クラブ目とさらなる事業展開が期待できると思いますね」
アスリートが企業にもたらす
“2つの価値”
おこしやす京都ACの代表取締役社長に就任した直後、すぐさま取り組んでいったのは、やはり来季へ向けた選手の補強だった。前述の通り、120パーセントの力を発揮できる選手の獲得に置く比重はかなり大きいと、添田さんは話す。

「選手選考においては、しっかりと調査し、サッカー選手としての様々な能力を見極めています。なかでも大事にしているのは、性格的な部分、つまりメンタル面です。例えば、なんでも人のせいにしたりとか、すぐに愚痴をこぼしたりとか、そういったネガティブ思考の強い選手はなかなか力を出し切れません。逆にメンタルがしっかりしていた方が、選手としての伸び代は大きいと思います。

だから能力や技術力に加えて、メンタル面が安定しているかどうかを基準として選手選考を行なっているんです。ただやはり関西1部リーグなので、レベルの高いJリーグと比べれば、メンタル的に成熟した選手は多くありません。その中でいかに選手のメンタルをケアしてあげられるかがクラブ強化のカギになります」

それは添田さん自身、クラブスタッフとして働いていた現役時代から感じていた課題だった。

「クラブと選手って、プレーにおけるそれぞれの考え方だったり、そもそもの契約のところから相反する部分があったりするんです。クラブ側が良かれと思ってやったことが、選手からはネガティブな反応をされてしまったり。そういったリアルな部分はたくさん見てきましたし、選手同士で複雑な心境を話し合ったりもしました。だから、ちゃんと選手のことを理解した上でのメンタルケアをしなければいけないと考えています」

デュアルキャリアを続けて得た経験があるからこそ、選手とクラブ側、両方の気持ちを汲み取った組織マネジメントを行うことができる。経営側としての考え方だけではいけない。サッカー経験者としての立ち位置から物事を見ることも、添田さんが考えるチーム作りには欠かせない要素なのだ。

また、選手と社会人を経験してきた添田さんには、今の現役の選手に対して、ある想いがある。

「サッカー選手は基本、午後はめちゃくちゃ暇です(笑)。午前中に練習したら、その後は何もありません。だからその時間を使って、少しずつでいいから何かを学んでほしい。今の現役の選手に対して、僕はそう思います。正直、1日に3〜4時間何かに費やしても、コンディションには全く影響ないので、だったら何かをやってほしい。

選手にとって、引退した後の人生って未知数なので、すごく怖いと思います 。ですが、その恐怖から逃げずに、自分自身のキャリアについて、考える時間を作ってほしいと思います 。どんな経験でもサッカーをやめた後に必ず活きてきますから」

現役を引退すれば競技ではなく、違う道で食べていかなければならない。いかに次のキャリアに向けて準備を進めておくことができるか。その度合いの大きさによっては、添田さんのように社長を任されることだってあるだろう。現役時代の考え方次第で、自分の未来はどうにでもなるのだ。最後に、自身が考えるアスリートの社会的価値について聞いてみた。

「価値としては大きく2つあると思っています。まず1つ目は“トップアスリートほど人の懐に入るのがうまい”ということです。監督に上手にアピールすることで出場機会を得られやすくなりますし、選手と信頼関係を構築することによってプレーにおけるコンビネーションでも良い影響を及ぼします。こういう選手は、その世界で生きる極意を知っているので、ビジネスにおいても成功する要素を持っていると思います。

2つ目は“サッカーをトップレベルでやってきた”ということです。並大抵の努力ではそこまで辿り着つくことはできません。練習に取り組む姿勢や自分を奮い立たせる手段を知っているからこそ、プロ意識を持って仕事に徹することができる。

セカンドキャリアを歩む際、この2つにはものすごく大きな価値があります。そして新しい仕事に就いたならば、3〜4年我慢できればある程度のところに追いついていきます。もともと備わっているアスリートとしての素晴らしい能力・経験があるので、その期間我慢して仕事をしていけば、とてつもない力を発揮できる人材になれるのではないでしょうか」

アスリートから経営側に進む道のりは、決して遠回りではない。むしろ、普通に社会人のルートを歩んできたビジネスパーソンよりも大きな成長を遂げると話してくれた。選手としての経験と知性を武器とした添田さんの“経営術”で、おこしやす京都ACを夢のJリーグの舞台へと導いていく。

(プロフィール)
添田隆司(そえだ・たかし)
1993年生まれ、東京都出身。2015年、東京大学経済学部卒業。大学4年生12月にJ3の藤枝MYFCからオファーを受け『史上2人目の東大卒Jリーガー』として選手兼任社員で加入。2017年8月にアミティエSC京都(現:おこしやす京都AC)に移籍するも、あと1勝でJFL昇格を果たせず、2017年12月に現役を引退。現在は、おこしやす京都ACの代表取締役社長に就任。

※データは、2019年3月12日時点

※スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポート戦略における{アスリートと企業等とのマッチング支援}」の取材にご協力いただきました。
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