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2018年10月5日16時29分

『パラアリーナ』は日本のスポーツ施設の“道しるべ”となる【後編】

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パラサポ推進戦略部プロジェクトリーダーの金子知史氏に話を聞いた
2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた動きが加速する中、2018年6月1日には『日本財団パラアリーナ』がオープン。日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)が、パラリンピック競技の普及および競技力向上への環境改善を目的に建設したパラスポーツ専用の体育館。

館内、至るところに選手のニーズを考慮した工夫がされており、選手たちからの評判も高く、現在の稼働率は90パーセント以上を誇る。さらに、障がい者スポーツ施設の“お手本”としての注目度も高く、全国から見学者が後を絶たない。今回は、そのパラアリーナの全容に迫る。

『パラアリーナ』の記事前編

取材・文/斎藤寿子
コート名に秘められた金メダルへの思い
車いすバスケットボール、ウィルチェアーラグビー、ボッチャなど多くの競技が利用
クールなエントランスから真っすぐ奥のドアの向こう側には、約2000平米のアリーナがある。バスケットボールコート2面分となっているが、コートから壁際までには衝突のリスクを避けるために通常の施設よりも多めにスペースが取られ、ゆったりとした作りになっている。

普段は4分割にして利用の貸し出しを行っており、それぞれのコートは「G」「O」「L」「D」と名付けられている。これは『2020年東京パラリンピックの時に、このコートで練習した選手が、金メダリストを獲得してほしい』という願いが込められている。

アリーナの最大の特徴は、車いすバスケットボール、ウィルチェアーラグビー、ボッチャ、ブラインドサッカー、ゴールボール、シッティングバレーボールと、パラスポーツの各競技で決められたコートラインが常設されていること。そのほか、テコンドーや卓球、車いすフェンシングも利用している。

また、アリーナ内には業務用の巨大なクーラーが8台設置されており、広い空間を即座に冷やすことができる。頸椎損傷などの障がいのある選手は、自ら体温の調節をすることができないため、熱中症などの対策として必須条件となっている。

もともとアリーナの建設に至った要因は、体育館の床に傷が残ることを懸念し、利用を拒否されるケースがあるからというもの。そこで、床のワックスを二重にし、通常よりも厚く塗ることで、傷がつきにくい工夫が凝らされている。実際、オープンして2カ月間でついた大きな傷はわずか1カ所。そのほかは、すべてワックスの部分が削られているだけで、床面には到達していなかった、その大きな傷も含めてスタッフの手で簡単に補修することができ、専用業者に何万円もかけて修理を依頼する必要はないという。

「とにかく私たちとしては、選手たちに思いきり練習してほしいということだけ。これに尽きます」

とパラサポ推進戦略部プロジェクトリーダーの金子知史氏。練習後には、アリーナスタッフがまとめて掃除を行い、次の利用者が気持ちよく練習できるような体制を整えている。
あらゆるポイントに映し出される“本気度”と“丁寧さ”
アリーナの隣に設置された約120平米のトレーニングルーム。最大の特徴は、パラパワーリフティングの公式のベンチプレスが4台も常設されているという点
アリーナの隣に設置された約120平米のトレーニングルームには、パラアスリートが使用可能なさまざまな器具が置かれている。最大の特徴は、パラパワーリフティングの公式のベンチプレスが4台も常設されているという点だ。試合と同じ器具を使用することができるため、バーの握り具合や台に体を寝かせた時の感触など、実戦形式でトレーニングを積むことができる。

トレーニングの前後に使用するロッカールームには、さまざまな障がいのあるアスリートに対応できるように、数種類のシャワーが取り付けられ、そのままシャワーを浴びることのできる車いすや、車いすから移るためのシャワーチェアや床に座る場合のマットも用意されている。

また、右手、左手どちらに障がいがあってもいいように、シャワールームのスライドバーは右側、左側と各場所によって位置が変えられている。ロッカーも数種類用意され、その一つは下に空間をつくり、車いすユーザーでも楽に使用することができるようになっている、洗面台も車いすユーザーが手を洗いやすいように、手前側が一段低くなっている。
さまざまな障がいのあるアスリートに対応できるように、数種類のシャワーが取り付けられている。そのままシャワーを浴びることのできる車いすや、車いすから移るためのシャワーチェアや床に座る場合のマットも用意
パラアリーナ内にあるトイレは、すべて車いすユーザーが使用できるスタイルになっている。しかし、ここでも配慮の細かさは類を見ない。例えばトイレットぺーパーホルダーの位置。シャワールームのスライドバーと同様に、各部屋によって右側と左側とで分けられている。

ゴミ箱もよくある足でペダルを踏む形式のものではなく、自動センサーもしくは手で軽く押せば開けられるようなスタイルの蓋のものとなっている。一見、たいしたことのないようにも思えるが、意外にもこうしたところが落とし穴となっている施設は少なくない。

単に“ゴミ箱を置けばいい”というのではなく、使用する側のことを本気で考え抜いた施設であることの何よりの証。こうし細やかさからも、パラアスリートに対する思いの深さを知ることができる。

パラアスリートのために作られた専用のアリーナ。その稼働率は非常に高く、いかに練習場所を欲していたアスリートたちが多かったかが分かる。9~10月は毎日予約が入っており、終日予約がないという日は、1日たりともないのだという。「休館日がつくれない状態です」と、金子氏も嬉しい悲鳴をあげる。

また、障がいのある人も利用できるスポーツ施設のモデルケースとしても高く注目を浴びている。オープン後、スポーツ庁や東京都の職員はもちろんのこと、地方自治体や企業などから見学したいという声が後を絶たない。バリアフリーは、障がいのある人だけでなく、高齢者や子どもたちにとっても安全で、パラアリーナは日本のスポーツ施設を変える存在への期待度も高い。

期間限定の施設ではあるが、パラアリーナはまさに2020年東京パラリンピックのレガシーとして、新たな日本の施設の“道しるべ”となる。
HP:日本財団パラアリーナ

※データは2018年10月5日時点
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