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2018年9月28日18時39分

『パラアリーナ』は日本のスポーツ施設の“道しるべ”となる【前編】

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パラサポ推進戦略部プロジェクトリーダーの金子知史氏に話を聞いた
2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた動きが加速する中、2018年6月1日には『日本財団パラアリーナ』がオープン。日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)が、パラリンピック競技の普及および競技力向上への環境改善を目的に建設したパラスポーツ専用の体育館。

館内、至るところに選手のニーズを考慮した工夫がされており、選手たちからの評判も高く、現在の稼働率は90パーセント以上を誇る。さらに、障がい者スポーツ施設の“お手本”としての注目度も高く、全国から見学者が後を絶たない。今回は、そのパラアリーナの全容に迫る。

取材・文/斎藤寿子
期間限定は“待ったなし”のベストな対応策
パラリンピック競技団体の運営支援と、パラリンピック・ムーブメントを目的に、2015年11月に設立されたのが、日本財団パラリンピックサポートセンター(以下パラサポ)。そのパラサポを運営するなかで、各競技団体や選手たちから多く聞かれたのが、練習環境の問題だった。パラサポ推進戦略部プロジェクトリーダーの金子知史氏は、こう説明する。

「世界を目指すトップレベルの選手たちでさえ、日常の練習場所を確保するのに苦慮しているという声が多く寄せられていました。特に車いす競技は、体育館の床が傷ついたり汚れたりするのは困る、という理由で利用を断られるケースが少なくなかったようです。そのために、日本代表の合宿地の確保においても、多くの悩みを抱えていたんです」

その問題解決に、パラサポが動いた。解決策を模索する中であがってきたのが、東京・お台場『船の科学館』にある敷地。ここは日本財団の関連団体の保有地のため、無料での利用が可能ということが分かり“ならば体育館施設をつくって運営し、選手たちに思い切り練習してもらおう”という方向へと舵が切られた。

その後の動きは速かった。体育館建設に舵を切ったのが、2017年5月のこと。それ以降、約半年かけて体育館の設計といった中身を詰める作業が行われ、同年12月に着工。約半年後の今年5月に体育館が完成し、6月1日のオープンへとこぎつけた。なぜ、これほどまでにスピーディに事が動いたのか。

「2020年は待ったなしに来るわけですから、問題解決は先送りすることはできないと思いました。ですから、私たちがまず優先したのは“いち早く体育館をオープンする”こと。そうすることで、選手たちには一日でも長く、思い切り練習してほしいという思いがありました」(金子氏)

一方で、パラアリーナは2021年度内に解体されることが決定しており、期間限定の施設となっている。これほどまでにパラアスリートに考慮された施設は国内ではそうはない。にもかかわらず、なぜ解体するのか。その疑問について、こう説明する。

「実はパラアリーナを建設した土地は、もともと博物館を建てるためのものなんです。しかし、2020年東京パラリンピックを盛り上げるというのは東京都にとっても重要なミッション。そこで、特別に私たちパラサポの活動期間である2021年までという条件付きで、建設したという経緯があります。なるべくスピーディに、かつコストがかからないという点でベストな選択をしました」(金子氏)
“ユニバーサル”と“クリエイティブ”の融合
2018年6月1日にオープンしたパラアリーナ。利用者の多くが車いすユーザーということから、施設の前にある駐車場から玄関へと入るところには、両脇にスロープがある
実際の施設の中は、あらゆる“工夫”と“丁寧さ”が盛り込まれている。

コンセプトとしたのは『“ユニバーサルデザイン”+“クリエイティブデザイン”』。パラアリーナの利用者の多くが車いすユーザーであるため、そこを軸に、そのほか視覚障がいの選手たちにも考慮するとともに、スポーツのかっこよさを表現した施設となっており“実用性”と“演出”が融合している。

施設に入ってまず感じられるのが、選ばれしアスリートのクールさだ。天井と床が黒で統一され、ところどころに情熱を意味する赤と、金メダルを意味するゴールドも配色されている。床には、パラサポのキーメッセージである“i enjoy !”の文字が白で描かれ、スポーツ本来の“楽しむ”ことを忘れずに、日々のトレーニングを頑張ってほしいという願いが込められている。

また、向かって右側の壁には巨大なレゴブロックの展示が置かれている。これは、パラサポのオフィスにある壁画を実寸大で再現したもの。壁画を描いたのは、パラサポのスペシャルサポーターを務める香取慎吾さんで、“i enjoy!”をテーマにしたデザインとなっている。
床は黒、壁は白と異なる配色がほどこされている施設内。弱視である視覚障がいのアスリートへの配慮で、コントラストを明確にすることで、壁への衝突のリスクを下げる
もちろん、考慮されているのはデザインだけではない。施設の前にある駐車場から玄関へと入る際には、両脇にスロープがある。実は、施設によってはスロープがあっても急な傾斜となっているために、実際には車いすユーザーの使用が難しいところも少なくない。しかし、パラアリーナのスロープは緩い傾斜となっており、ウィルチェアーラグビーなど四肢麻痺の選手も利用可能だ。そのエントランスを入ると、施設の中はオールフラットとなっている。

施設内の床は黒、壁は白と、異なる配色がほどこされている。これは、弱視である視覚障がいのアスリートへの配慮で、コントラストを明確にすることで、壁への衝突のリスクを下げる効果がある。また、床の両端には白いラインが引かれている。これはクリエイティブな面で、競技のコートをイメージしたものとなっており、一方ユニバーサルな面では“線から出てはいけない”という心理的な働きによって壁への衝突を避けるという空間認知のサポートを意味している。

また、施設内のあらゆる扉は、車いすユーザーの選手でも開閉しやすいように、すべてスライド式。ドアは、天井から吊るすタイプのもので、床との摩擦がないために、楽に開けることができる。加えて敷居がないため段差もない。また、壁とは異なる色を配色して見やすくしているだけなく、ドアの前の床にも矢印でどの部屋のドアなのかを示す文字が施されている。壁と床の両面からという丁寧な配慮がうかがえる。(前編終わり)

『パラアリーナ』記事後編
HP:日本財団パラアリーナ

※データは2018年9月28日時点
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