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2018年7月10日12時09分

企業とアスリートの関係 -Vol.3-「ユーグレナ」(後編)

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パラアーチェリー選手の服部和正さんと採用した管理部総務人事課チームリーダー石川久美子さんに話を聞いた
2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、スポーツ、そしてアスリートに注目が集まる今。企業とアスリートの関係にも変化が生まれている。双方にとってメリットのある関係を築くために、何が必要なのだろうか? 選手やスポーツ事業を支えている企業人に話を聞いていく。

今回は、ミドリムシを活用した食品、機能性食品、化粧品の製造販売を行っている『ユーグレナ』。60歳を超えて再就職を果たしたパラアーチェリー選手の服部和正さんと採用した管理部総務人事課チームリーダー石川久美子さんに、選手と企業が「ウィン-ウィン」の良好な関係性を築くために必要なことを聞いた。

《前編はこちらから》

取材・文/斎藤寿子
望んでいた『一緒に戦っている』という企業からの応援
2017年11月に入社した服部さん。管理部総務人事課に所属し、出勤は週1日で、そのほかは競技に充てている。通常の練習時間も海外遠征も十分に確保することができ、2020年に向けて充実した日々を送っている。

入社にあたって、服部さんの要望は主に2つだった。

1つめは経済的支援。パラアーチェリーの場合、年に2、3回ほどの海外遠征があり、そのほか国内大会や合宿がある。そのほか、用具にかかる費用を含めると、年間で数百万円必要となる。そして、もう1つは『会社からの応援体制』だった。

「自分一人ではなく“会社のみんなと一緒に戦っている”という精神的刺激が欲しいと思っていました。その方が、モチベーションも上がることは間違いないですからね」

その点、ユーグレナ側も同じ気持ちだった。最初に出雲充代表取締役CEOにいわれたのは“社員とコミュニケーションを図って、みんなが応援したくなるようにしてほしい”というものだった。
3月ドバイで開催されたワールドランキングトーナメント。ネット配信されていたため、社員たちが日本から声援を送ったという
入社して約8カ月、今では服部さんが週に一度の勤務日にイントラネットにあげる活動報告を見て“頑張ってください”と声をかけてくれる社員も少なくない。また、今年3月ドバイで開催されたワールドランキングトーナメントは、ネット配信されていたため、大きなスクリーンで社員たちが応援。

服部さんが、初めて世界の舞台で表彰台に上がったときには拍手喝采だったという。帰国後は、あちらこちらから祝福の声があがり、嬉しさとともに安堵したと語る。

「20代や30代ならまだしも、60歳を超えての雇用ですからね。やはり、会社としては採用するかどうか、少なからず悩んだと思うんです。投資するだけの価値があるのかどうか。ですから、一つ結果を残すことができて本当に良かったなと。喜んでもらえて、とても嬉しかったです」

一方、石川さんは“会社として大事だったのは年齢ではなかった”と語る。

「もともとベテランに来ていただきたいという考えがありましたし、多様性が認められている会社ですので、年齢的なことはまったく議題にあがりませんでした。それよりも、私たちが求めていたのは、若い社員の頼れる存在になってほしいということ。何か困った時、キャリアで悩んだ時に、的確なアドバイスをしてもらえる窓口になってほしいという気持ちがありました。そのためにはコミュニケーションが必要で、そういう点で“競技との両立はできるだろうか”ということの方が心配でした」

しかし、それは杞憂に終わった。もともと好奇心旺盛の社員が多いユーグレナ。そして、服部さんもコミュニケーション能力が高く、双方の相性は抜群で、入社以来、人事の課題解決にもアドバイザリーとして大きな役割を果たしている。

社員たちも競技に強い関心を示しており、時折、服部さんが行うアーチェリー体験会も大盛況で、なかには“今度はいつやるんですか?”と楽しみにしている社員も少なくない。
大切なのは『特別扱いしないこと』と『感謝の気持ち』
石川さんは、服部さんに20年以降も会社の一員として働いてほしいと話した
こうして、お互いに「ウィン-ウィン」の良好な関係性を築くユーグレナと服部さん。双方において、重要なことは何なのだろうか。石川さんは企業の立場として“特別扱いしない”ことを挙げる。

「もちろん、アスリートとしての時間を確保してもらうわけですが、社内ではあくまでも役割を持った一人の社員ですから、周囲に特別扱いと取られないようにする仕組みが必要かなと思います。そうすることで『仲間』として応援したくなる雰囲気ができるのかなと」

一方、アスリートとして大事なのは“感謝の気持ち”だと服部さんはいう。

「アスリートが求めるのは、経済的支援と環境的支援。そのお返しをしなければいけないわけですが、費用対効果でいったら、実際は費用の方が大きいのは当然です。個人が年間何百万もの価値を企業に提供することは難しいですからね。それだけ企業は相当なコストをかけて支援してくれているわけで、私たちアスリートはそれに対して感謝の気持ちを忘れてはいけないし、どうすれば少しでも恩返しができるかを考えなければいけないと思います」

今は「週に一度の出勤が、楽しい。フィジカル的にはいい休養になっているし、メンタル的にはいい刺激を受けている。本当に今、毎日が充実しているんです」と服部さん。石川さんはこうエールを送る。

「服部さんには“ぜひ私たちも一緒に世界を目指させてください”という気持ちです。そして、社員としても弊社が世界に名の残る企業に成長していけるように、2020年までといわず、その後も長く一緒に人事としての機能を果たしていってもらえたらと思っています」

豊富な知見と経験を持つベテランだからこそ構築できるアスリートと企業との「ウィン-ウィン」の関係性。ユーグレナと服部さんは、まさにそれを体現している企業とアスリートだ。
(プロフィール)
服部和正(はっとり・かずまさ)
1957年2月21日生まれ、岐阜県出身。2013年ジャパンパラアーチェリー競技大会での優勝を始め、同年のパラアーチェリー世界選手権出場、2014年仁川アジアパラ競技大会出場、2017年全日本社会人ターゲットアーチェリー選手権大会8位など、国内外の大会で活躍。2017年2月に36年間勤めた保険会社を定年退職後、同年11月にユーグレナへ入社。2020年東京パラリンピックの出場を目指す。HP:ユーグレナ

※データは2018年7月10日時点
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