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2018年6月12日16時59分

「競技を続けているからこそ生まれる“つながり”や“強み”」アスリートのデュアルキャリア フットサル選手 森知美さん

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フットサル選手として活躍しながら、スポーツショップで働く森さんに話を聞いた
現役アスリートとして競技を続けながら仕事をしていくためには、どのようなことが大切で、どのようなことで苦労しているのか。実際に、仕事と競技を続けているアスリートに、両立するために必要なことを聞く。

今回は、フットサル選手として活躍しながら、スポーツショップ「ギャラリー・2」で働く森知美さんに話を聞いた。

取材・文/斎藤寿子
高校卒業後に描けなかった将来像
子どもの頃から体を動かすことが大好きだった森知美さん。幼稚園でお気に入りの遊びはサッカーボールを蹴ることだった。その様子を見ていた幼稚園の先生が両親に“サッカーをやらせてあげるといいのかもしれません”と言われたことがきっかけで、小学校入学と同時に学校のサッカーチームに入った。それが“フットボーラー人生”の始まりだった。

小学校の時は男子の中で唯一の女子だったが、体力も技術も男子に劣ることはなく、体格も小学6年生の時にはすでに身長が150センチほどあり、後ろから数えた方が早いほど。そのため、チームでは“紅一点”ながら中心的選手として活躍した。

中学生になると、世田谷区の女子サッカーチームに所属。1年生の終わりからは、それまでのフォワードからゴールキーパーに転向した。さらに高校では、名門の村田女子高等学校サッカー部にスポーツ推薦で入り、正ゴールキーパーとして活躍。2年、3年の時には全国大会にも出場した。

しかし、高校卒業後も“絶対にサッカーを続けていく”とは思えなかったという。それは、12年間でやり尽した気がしていたから。とはいえ、次にやりたいものが決まっていたわけではなかった。

「スポーツに関わりたいという想いはありましたが、それでも何をやっていいのか、具体的なことは何も分かりませんでした。両親が鍼灸マッサージ師をしていたので、ふとそれが頭に浮かび、だったら私は“柔道整復師かな”と安易に考えて専門学校に進学しました」

だが、長続きはしなかった。専門学校に通いながら、いつも頭には”何か違う。自分は本当にこれでいいのだろうか…”という迷いの中、1年半で専門学校を退学。その後は、専門学校時代からの居酒屋でアルバイトをしながら、奨学金の返済にあたった。

そんな将来が見えない中で、森さんにとっての楽しみが、高校卒業後に友人から誘われて始めたフットサルだった。

「最初は人数が足りないからという理由で、ちょっと付き合う程度だったんです。でも、やっていくうちにどんどんハマっていきました。でもサッカーとフットサルって、似て非なるスポーツなんですよ。まず、飛んでくるシュートの本数がまったく違うんです(笑)。フットサルは気を抜く暇がなく、次から次へと、どこからでもシュートが飛んでくる。その代わりコートが小さいので、キーパーからのパスが味方のシュートに直結する。それが楽しいんです!」

しかし、専門学校をやめてアルバイト中心の日々の中では、練習に行くこともままならなくなり、休日の試合に行くのがやっとだった。

転機が訪れたのは、19歳の時。

アルバイトで、昼夜逆転の生活やストレスなどが原因でメニエール病を発症するようになった。居酒屋を辞め、昼間にできる職場を探し始めた時、現在の職場であるスポーツショップ「ギャラリー・2」で、アルバイトの募集をしていた。当初はチームメイトに声がかかっていたのだが、すでに仕事が決まっていたため、運良くまわってきたのだ。

実は森さん、高校生の時から同店に通い、よくサッカー用品を購入していた。そのため、上司や同僚となった店員とは顔見知りだったというから、縁の深さを感じずにはいられない。
一番はお客さんとのコミュニケーション
「ギャラリー・2」渋谷店に勤めて、12年目になる森さん。今も正社員ではなく、アルバイトという形態にこだわっている。その理由は、やはりフットサルを続けたいという強い意志があるからだ。

「正社員になると、土日や祝日に試合だからといって簡単に休むことはできません。そうすると、会社にもチームにも迷惑をかけてしまう。ですので、私はアルバイトという形態をとらせてもらっています」

チームの練習は週に3日程度。決まった練習場があるわけではなく、東京都内の公共のコートを予約するため、日によって時間は異なるが、18時半頃から21時頃までというのがおおよその練習時間となる。その時間に合わせて、翌月の仕事のシフトを組んでもらうように、会社からも配慮してもらっているという。

今シーズンの関東女子フットサルリーグは、6月16日に開幕し、12月末まで続く。さらに東京選抜の候補に選ばれた場合は、年明けから3月までその活動が入るため、オフシーズンはほんのわずか。だからこそ、会社からの理解がなければ、プレーヤーとして続けていくことはできない。

フットサル選手として活躍している森さん。仕事中には、会話を楽しむためにショップに足を運ぶお客さんもいるという人気ぶりで“顧客とのコミュニケーション”を大切にしているという。

「接客業という仕事柄『はい、ここでおしまい』と時間通りに切り上げられないこともあります。せっかく来てくださって、話をしているのに『私、練習があるので』というわけにはいきませんからね。会社でフットサルができるように優遇してくれている分、私もお店のスタッフの一人として、丁寧な接客を心がけています。その中で大切にしているのは、お客さんがいかに納得できるものを提供できるかどうか。だから、話だけで終わることもあるんです。でも、それで居心地の良さや信頼関係を築くことができれば、また来てくれる。それが一番かなと思っています」

また現役フットサルのゴールキーパーだからこその強みもある。

「お店には、ゴールキーパーでグローブを探しに来るお客さんも来られます。大抵の場合、元サッカー選手という店員でもフィールドプレーヤーが多くて、ゴールキーパーの専門知識を持っている人ってあまりいないんです。そういう中で、私の知識や経験に基づいて、アドバイスができるので、競技をやっていることが仕事にもきちんと活かされています」
VEEX TOKYO Ladiesに所属し、関東リーグでプレーしている森さん。好きなフットサルをやり切りたいと話した
“フットサルがない人生は考えられない”という森さん。『今の仕事も楽しいし、フットサルを続けられていることが何より嬉しい』と、その表情からは充実した競技人生がうかがえる。もちろん、年齢を考えれば、また周囲を見渡せば、迷いがまったくないといえば嘘になる。

「いろいろと大変なこともあるし、迷ったりすることもあります。でも、人生は一度きりなので、好きなフットサルをやり切りたいと思っています。それに、仕事と競技を続けているからこそ、その経験が両方に活かされていると感じています。私は今、すごく充実した日々を送ることができているので、周囲の人たちに本当に感謝しています!」

独自のライフスタイルを築き上げた森さん。その笑顔は、充実感にあふれている。
(プロフィール)
森知美(もり・ともみ)
1986年生まれ、東京都出身。小学生で始めたサッカーでは女子サッカーの強豪・村田女子高等学校に進み東京都選抜にも抜擢される。2004年からフットサルへ転身。2007・2010・2011年は日本代表にも選出され、現在はVEEX TOKYO Ladiesに所属し、関東リーグでプレー。2006年 から、スポーツショップ「ギャラリー・2」渋谷店で働いている。

※データは2018年6月12日時点
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