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2018年3月19日12時27分

パラリンピックで5つのメダルを獲得しているパラスイマー鈴木孝幸が海外に拠点を求めたワケ

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イギリスのノーサンブリア大学に通う鈴木孝幸。彼はなぜ日本を離れ海外に行ったのか
2004年アテネから2016年リオデジャネイロまで、4大会連続でパラリンピックに出場しているパラスイマー鈴木孝幸。彼は今、イギリス・ニューキャッスルにあるノーサンブリア大学に通う学生として、学業と水泳の両立を図っている。鈴木が拠点をイギリスに移したのは、2013年のこと。彼はなぜ日本を離れ、海外に行ったのか。そして、そのメリットや日本との違いとは何なのか、話を聞いた。

取材・文/斎藤寿子
『刺激』を求めてイギリスへ
鈴木にとって、3度目の出場となった2012年ロンドンパラリンピック。鈴木は、50メートル平泳ぎと150メートル個人メドレーで銅メダルを獲得した。だが、2008年北京パラリンピックに続いて金メダル獲得を目指していた鈴木にとって、それは納得のいく結果ではなかった。

“何かを変えなければ…”そう思って求めたのが『刺激』だった。

「あるトレーナーさんから聞いたことがあるのですが、スポーツ選手は3、4年で練習環境など何かを変えると刺激が生まれ、パフォーマンスの向上につながることがあるそうです。思えば僕自身、アテネの時は高校生でしたし、北京の時は大学生、そしてロンドンでは社会人と、常に新しい生活や練習環境のもと、大きな刺激を受けながら練習することができていたんです。だからこそ何かを変えたいと思いました」

国内で師事する峰村史世コーチに相談すると、彼女と親交の深いイギリス人コーチから、ロンドンパラリンピックでイギリス水泳チームのコーチを務めていたルイーズ・グレイアムを紹介してもらった。

そして2013年9月、会社の語学留学制度を利用し渡英、語学学校に通いながらグレイアムコーチが指導するノーサンブリア大学水泳部の練習に参加。1年後の2014年には、大学に入学し、正式な水泳部員となった。
違いは施設や機器ではなく受け入れ体制
ノーサンブリア大学では構内にあるジムの専属トレーナーが一人一人のメニューを作りサポートしている
鈴木が拠点としている大学での練習を見学させてもらった際、ある疑問が浮かんだ。鈴木が所属している水泳部が使用していたのは25メートルのプールであり、トレーニングルームのマシンも日本とそう変わりはない気がした。

いったい、どこに海外に拠点を移したメリットがあるのか。そんな疑問を率直に聞くと、鈴木はこう答えてくれた。

「おっしゃる通り、僕の大学の練習環境が日本以上に良いかというと、そういうわけではありません。トレーニングルームのマシン一つにしても差があるわけではない。それでも、なぜ海外に拠点を移したかというと、ズバリ『刺激』なんです。すべての面において慣れ親しんだ環境では、どうしても頭が怠けてしまう。それをリセットさせて、頭を怠けさせないために、生活スタイルも練習メニューも日本とは異なるから、体の動きも違ってくるのかなと。体は、脳からの伝達で動いているわけですからね」

では、日本国内で『刺激』を求めることはできなかったのだろうか。その問いに、鈴木はこう語った。

「今なら可能かもしれませんね。2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定して以降、僕たち障がいのある選手を受け入れてくれる施設や大学、クラブも増えてきました。でも、僕が渡英した当時はまだ東京での開催が決定していなくて、受け入れてくれるところは本当に少なかったんです。一方、イギリスではすでに受け入れる体制がありました」

大学もしかり、そしてトレーニングの内容もしかりだ。

渡英する前、日本で練習をしていた鈴木は、ほとんどウエイトトレーニングはしていなかったという。その理由は、ジムに行ったところで、鈴木のトレーニングをサポートしてくれる体制がなかったから。一方、ノーサンブリア大学では構内にあるジムの専属トレーナーが一人一人のメニューを作り、そしてサポートしてくれている。そのため、鈴木もほかの学生と同様に、ウエイトトレーニングがしっかりとできている。
変わらないスイマーとしての存在価値
大学を卒業するのは2019年6月。2020年東京パラリンピックを目指すかは自身の力を見極めて決めるという
そして、もう一つ。
鈴木がイギリスに来て、一番に日本との違いを感じたのは、選手としての扱われ方だった。

鈴木は当初の計画では、語学学校の1年間で帰国するつもりでいた。ところが、練習に通ううちに、大学側が勧誘してきたのだという。それは、水泳選手としてのスカウトを意味しており、奨学生として迎え入れてくれたのだ。

その背景に、イギリスでは健常者の大会に障がいのある選手が参加することが、認められていることにある。大学選手権も同じで、障がいのある選手の成績が、大学のポイントとして加算される。鈴木によると、各種目の世界記録を1000ポイントとし、その記録にどれだけ近いタイムを出せるかによって、金、銀、銅のメダリストが決まり、それぞれポイントがつく。それは障がい者アスリートも同様で、パラ水泳の世界記録のタイムとの差でメダリストを決定し、健常の学生と同じポイントがつくシステムとなっている。

イギリスの大学では、選手の成績によって大学にポイントがつきランク付けされる。当然ランクが高い大学には、優秀な選手が集まるため、非常に重要となる。そのため、パラリンピアンとして世界トップクラスの実力を持つ鈴木は、大学の重要なポイントゲッター。つまり、大学における存在価値に、障がいの有無は関係ない。他の学生と同じものさしで測られているのだ。

一方、日本の大学でも日頃の練習は、健常の学生とパラアスリートが一緒に練習を行うことが多くなってきている。しかし、実戦はというと、オープン戦以外での大学の大会にパラアスリートの学生が参加することはまずない。そんなところにも、鈴木が海外を拠点とする理由がある。

卒業は2019年6月の予定。それまでに自分の可能性を探るつもりだという。

「2020年東京パラリンピックに出場したいという思いはもちろんあります。でも、単なる『記念参加』みたいなことは絶対にしたくない。だから大学卒業する頃までに、自分が2020年に世界とメダル争いができる力があるかどうかを見極めたいです」

イギリスで得る「刺激」の一つ一つが、鈴木の成長を促す糧となっている。
《プロフィール》
鈴木孝幸(すずき・たかゆき)
1987年1月23日生まれ、静岡県出身。早稲田大学教育学部卒業。小学生から水泳を習い始め、高校で本格的に競泳に取り組み、パラリンピックにアテネ、北京、ロンドン、リオデジャネイロの4大会連続で出場し、5つのメダルを獲得。2009年にゴールドウイン入社。スピード事業部配属後、2016年4月からコーポレートコミュニケーション室へ配属。パラリンピアンとして2020年の五輪・パラリンピック招致のアンバサダーも務め、立候補ファイルを提出するなど招致活動にも尽力をつくした。
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