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2017年12月29日14時46分

元アスリートが語る スポーツの仕事「やる」から「つくる」へ- Vol.11–元野球選手 奥村武博さん~後編~

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元プロ野球選手の奥村さんに話を聞いた
~第11回目~
奥村武博(おくむら・たけひろ)さん/38歳
プロ野球選手→公認会計士(オフィス921 スーパーバイザー)

取材・文/斎藤寿子

奥村武博さんセカンドキャリア記事前編
共通要素が多い
「スポーツ」と「勉強」と「ビジネス」
奥村さんは、9年間を振り返って、こう語る。

「試験に落ちた時、やはり一番役に立ったのは、野球の経験でした。ダメだった原因を究明して、その問題を解決するために、次はどういうアプローチをしていくかということを考えたんです。それって、例えばピッチャーが『失点を防ぐには、スピードを速くすればいいのか、コントロールを磨くのか、それとも変化球の球種を増やせばいいのか』と考えるのと同じなんです。原因によってアプローチの仕方も違うわけで、受験勉強においてもしっかりと間違いの原因究明をしてから効果的な方法を考えることができたのは、野球をやってきたおかげでした」

『野球とつながっている』――そのことに気付いて以降、勉強することが楽しくなっていったという。はじめは机に向かうのにさえ苦労していたが、気分転換に他の問題集をやるほどにまでなっていた。

「人生、無駄なことは何一つありません。最近は『デュアルキャリア』という言葉がよく使われますが、それは現役中から二足のわらじを履くように『何か特別なことをしなければいけない』ということではないんです」

現役時代にやってきたことが、いかに自分の武器となり得るか。今、奥村さんは実感している。

「ピッチャーは『調子が悪いなら悪いなりに投げて勝たなければいけない』と言われるのですが、試合中にその日の問題点を把握して、改善していくんです。さらに一球一球、目まぐるしく状況が変わる中で、どうすべきかを判断しなければいけない。

また、サッカーやバスケットボールのように時間に制限のあるスポーツであれば、残り時間を計算し、状況判断をして、何を選択すれば勝てるのかということを考えますよね。こうした判断力やタイムマネジメント能力って、ビジネスにも非常に重要な要素です。

一見、全く畑違いのように思えますが、実は日々の練習や試合を通じて、選手たちにはビジネスや勉強に必要な力が高いレベルで養われているんです。でも、残念ながらそれに気づいていない選手が多い。“自分はスポーツしかやったことがない”ではなく“長年真剣にスポーツに取り組んできたからこそ”と考えるべきだと思うんです」
普段から取り組んでいることが
実は将来の備えになっている
近年、日本のスポーツ界でも目を向けられるようになった『セカンドキャリア』。そのために必要なデュアルキャリア(※現役中からほかのキャリアも築く)とは、特別なことではなく、必要なのは日頃の練習への姿勢だという。

「アスリートは、普段から目的意識や問題意識をもって取り組んでいます。そういったことが、ビジネスや勉強をする際に役立つ力を育てており、実は将来の備えになっているんです。ただその能力の使い方、つまり一般社会のルールを知らない。スポーツもまずルールを覚えますが、ビジネスにおいてもそれは一緒のことだと思います。スポーツにも色々な種目があるように、仕事にもいろいろな職種がある。『知る』ことがデュアルキャリアの原点だと思います」

それでは、どのように『知る』ことを広げていけばいいのだろうか。

「今時は、スマートフォンやパソコンなどほとんどの人が使っていますが、それらを使った情報の得方は、自分がすでに興味のあるものしか拾わない傾向にあります。自分の興味のある分野にだけ触れるのではなく、全く関係のない分野の情報が新しい気づきをもたらしてくれることもあります。知識の一つとして取り入れていくことで、自然と世界は広がっていくと思います」
気付いてほしい『できない』と『やってこなかった』の違い
講演やセミナーなどで、自らの体験をもとにしたデュアルキャリアという考え方の啓蒙に力を入れている
『野球バカ』は、決してマイナスな言葉ではない。それは、バカが付くほど、野球を一生懸命にやってきたということ。長い間、一つのことに熱中し、集中することは、誰にでもできることではない。だからこそ、“そんな自分に自信を持ってほしい”と、奥村さんは語る。

「確かにアスリートは、自分の競技以外についての『知識』という部分では不足していることもあると思います。でも、その知識を得るための土壌はしっかりと養われているはず。『スポーツしかしてこなかったから何もできません』ではなく、単にやってこなかっただけなんです。だから、やればできることは必ずある」

そのことを、少しでも多くのスポーツ関係者に知ってもらいたいと、2017年10月に「一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構」を設立。講演やセミナーなどで、自らの体験をもとにしたデュアルキャリアという考え方の啓蒙にも力を入れている。

公認会計士は、3年間の合計で120単位の座学を取らなければいけない。つまり、公認会計士でいる限り、奥村さんの勉強は続いていく。

「でも、僕にとって何かを継続することは、苦ではないんです。なんたって、15年以上も野球を続けてきたんですからね(笑)。でも引退した当初は、野球について聞くのも見るのも嫌で、あんなに大好きだった野球が本当に嫌いになりそうでした。しかし今は『野球をやってきて良かった』と、胸を張っていえます。現役の選手たちにも、引退後にそう思えるような人生を歩んでほしい。そのための手助けができればいいなと思っています」

その表情からは、充実感が窺い知れた。
(プロフィール)
奥村武博/1979年生まれ、岐阜県出身。97年のドラフトで阪神タイガースから6位指名を受ける。肘、肋骨、肩などの故障を繰り返し、2001年オフに戦力外通告を受ける。翌年は打撃投手として契約するも、1年で解雇。バーやホテルなどで働き、04年から公認会計士の資格取得を目指し13年に合格。14年から監査法人に勤務。2年間の実務経験と修了考査を終え17年6月に公認会計士登録。元プロ野球選手として初の公認会計士となる。17年10月より税理士法人オフィス921にて勤務。と同時に、一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構を設立し代表理事に就任。

※データは2017年12月22日時点
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