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2017年9月6日18時43分

スポーツ庁長官の鈴木大地氏に聞く理想のスタジアム&アリーナとは?

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理想のスタジアム&アリーナにつて、スポーツ庁長官・鈴木大地氏が話してくれた
2017年9月12日~14日、千葉県・幕張メッセで開催される『スタジアム&アリーナ2017』は、スタジアムなどスポーツ施設に特化した総合イベント。世界各国から、最先端のテクノロジーとソリューションが集結する。今回は、9月12日の開幕を記念して行われる「ウェルカムスピーチとプレゼンテーション」に出席するスポーツ庁長官の鈴木大地氏に、理想のスタジアム&アリーナや自身が行っていた競泳のアリーナについて話を聞いた。

取材・文/太田弘樹
新たに『20』の多様な世代の交流拠点となる
スタジアム・アリーナの誕生を目指す
‐2017年6月に『スタジアム・アリーナ改革ガイドブック』が公表されました。期待する点はどのようなことでしょうか。

「まず、近年スポーツによってまちづくりをしていこうという地方自治体も増えています。ただ“関心はあるが、どのように大規模な施設を作ったらいいのか分からない”というような声もあります。そのような自治体の声にこたえるべく、虎の巻のようなガイドブックを作成しました。スポーツは『する』『みる』『ささえる』という3つの役割があります。しかし、日本のスポーツ界は『みる』ところに注力してこなかったと感じます。欧米で3~5倍伸びているスポーツ産業が、日本はこの10年停滞しています。スポーツ産業だけではなく、日本全体のGDP(※国内総生産)が伸びていないということも言えますが、潜在能力がまだある『みる』というスポーツの側面をもっと活性化させていき、スポーツ産業が成長していくことを期待しています」

‐バスケットボールのBリーグ設立に続き、2018年秋頃には、バレーボールがスーパーリーグ、そして卓球がTリーグへと、準プロ・プロ化が各競技急速に進んでいます。鈴木長官のいう『みる』スタジアム作りが必要になってくると思います。

「そうですね。未来投資戦略において、2025年までに新たに20カ所のスタジアム・アリーナの実現を目指すことが掲げられました。そんな中で、私が印象に残ったのが野球・広島カープの本拠地として使用されている『広島市民球場 MAZDA Zoom-Zoomスタジアム』です。球場自体が、ボールパークと呼ぶに相応しく、お客さんと選手の距離も近いです。特徴的だったのは、ライトスタンド側にフィットネススタジオが隣接されており、球場を見ながらトレーニングができるなど、人が集まるような仕掛けをしています。今は、野球を真剣に観戦に来る人は3割で、あとの7割は食事をしたり、ビールを片手に仲間と集う場所という方が占めています。中には、絶対にテレビに映らない場所というのもあるんです(笑)。要するに、色々な目的で、色々な人が観戦に行けるという、ニーズに応えたスタジアム作りというのが理想になってきます」

‐ITを活用したスマートスタジアムも年々増えてきています。

「もちろん、これからの主流になるのは、ITを活用したスタジアムです。米国カリフォルニア州にあり、NFLのサンフランシスコ49ersの本拠地であるリーバイス・スタジアムに行きました。そこは「ITスタジアム」として最先端を行っていると感じましたね。スタジアム専用のアプリをダウンロードするだけで、座席に居ながら飲料をオーダーし、座席まで配達してもらうことまで可能です。また、現地で観戦していて、あのスーパープレーをもう一回見たいと思っても、オーロラビジョンで再生してくれるとは限らないのですが、アプリを使用すればゲーム中にもう一度見たいシーンすぐに見られるんです。会場に行けば、様々なことができるんだなと、ITの幅広い活用の必要性を感じました。まさしく、今の時代に合った観戦方法です」

‐スタジアム設備投資は、スポーツ産業の中でも最大規模の投資になります。スタジアムやアリーナを運営していくうえで、マイナス収支にならないために重要なことを教えてください。

「スタジアムやアリーナは大きな投資となります。スポーツ産業を大きくしていくためには、持続可能な運営が必要になってくるでしょう。また、スタジアムとアリーナは規模が大きく違い『アリーナ』のほうが、利活用しやすいのではないかと考えています。維持費を抑えられ、屋根があり、スポーツ以外でもコンサートなど定期的に行える可能性を秘めており、用途が多彩になります。一方、スタジアムのほうも工夫をしていく必要があります。スタジアムの維持費はとても大きいので、スタジアム構想段階からスポーツ界だけでなく、自治体をはじめ、多くの関係者と連携を図っていけるようにするというのが、スタジアムをうまく運営していく上で、肝要だと感じています」
地域に根付きいかに利活用できるかが重要なポイント
‐鈴木長官は競泳選手として、様々なところで泳がれてきました。多くのアリーナを見てきた中で、今後理想となる水泳アリーナはどのようなものでしょうか。

「水泳会場でいうと、2000年シドニー五輪の競泳競技で使用されたシドニー・オリンピックパーク・アクアティックセンターは、とても印象的でした。当然、五輪のときには世界一を決める場所だったわけですが、そのあとは、競技も行われますが、一般開放されていて、泳ぐことも可能です。さらに、子供たちが遊べるレジャープールがあり、ウォータースライダーも併設されています。加えてジャグジー、サウナ、ジムと、まさに誰もが楽しめる施設になっています。私は2013年ごろに視察にいきました。シドニー五輪から13年が経っていましたが、完全に地元に根付いており、ものすごい数の人が来ていましたね。やはり、大きな大会が終わった後も、地元の方が大勢来て楽しめる施設になる。そういったアリーナが理想ですし、そうしなくてはいけません。『みる』『する』スポーツということになれば、地域での利用価値も高まります。それがレガシーになっていきます」

‐レガシーという言葉が出ましたが、東京五輪では、新国立競技場や有明アリーナ(バレーボール)、アクアティクスセンター(水泳)、海の森水上競技場(カヌー)などが新設されます。五輪会場のスタジアム・アリーナがレガシーとなるために、必要なことは何でしょうか。

「すでに立地は決定しているので、まずは人が通いやすい交通手段が必要になってくるでしょう。そして、高額な施設を作るわけですから、利活用しながら価値をいかに上げていけるかが大切になってきます。シドニー・オリンピックパーク・アクアティックセンターのように、トップアスリートのためだけではなく、広く一般の方にも利用していただけるような施設の開放を行っていくべきでしょう。1つ例を挙げますと、1964年東京五輪で水泳競技の練習会場として使用されていた国立代々木競技場室内水泳場を、2016年7月下旬~10月下旬に朝7時からの早朝営業期間を設けたことがありました。(※現在は、国立代々木競技場耐震改修工事実施に伴い営業休止中)そうしたら、トライアスロンを行っている方たちが、たくさん来場するようになりました。同じ施設であれば、杓子定規にならないで、いかにフル稼働させていけるのかを考えていくべきでしょう。あとは、スポーツをする国民がたくさん増え『健康』になるということも重要です。国民医療費が40兆円を超え、超高齢化社会に入る日本では、スポーツで健康維持をして、医療費が下がれば、スポーツの価値向上にもつながっていきます。そこも含めてスポーツ施設を考える必要があるでしょう」

‐最後に、今後目指すところを教えてください。

「日本では“スポーツ=トップアスリート”が行うものだと思いがちですが、まず未来のトップアスリートになる子供たちが楽しめるように工夫し、施設から様々な用途で活用することができるということを、どんどん発信し、そういう環境を作り上げていかなければいけません。2025年までに多様な世代が集う交流拠点となるようなスタジアム・アリーナを20カ所実現するということを目標に、関係者とより一層の連携を図り進めていきます」
(プロフィール)
鈴木大地(すずき・だいち)
競泳選手として1984年ロサンゼルス、1988年ソウル五輪に出場。ソウル五輪では男子100メートル背泳ぎで、日本競泳界に16年ぶりの金メダルをもたらした。順天堂大学大学院を卒業後、米コロラド大学ボルダー校客員研究員、ハーバード大学のゲストコーチなどで留学を経験。2007年には順天堂大学で医学博士号取得し、2013年同大学教授。同年には日本水泳連盟会長、日本オリンピック委員会理事に就任。2015年10月スポーツ庁長官(現職)。

※データは2017年9月6日時点
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