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2017年8月31日14時48分

全日本スキー連盟常務理事の皆川賢太郎氏が考える ITを活用した「見えないスタジアム」づくりの可能性

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2017年9月12日~14日、千葉県・幕張メッセで行われる「スタジアム&アリーナ2017」。海外で絶大な人気を誇るスタジアム&アリーナ展のアジアパシフィック版として、アジアで唯一開催。スタジアム&アリーナに特化した展示会では半数以上が海外からの出展と、世界各国から最先端のテクノロジーとソリューションが集結する。今回は、12日に「スノーリゾートのスタジアム構想」について講演する、元アルペンスキー日本代表で、現在は全日本スキー連盟の常務理事を務める皆川賢太郎氏に、日本と海外との違いや構想について話を聞いた。

取材・文/斎藤寿子
欧州に見る会場価値のブランディング
―まず、ウインタースポーツの試合会場の現状をお聞かせください。

「ウインタースポーツの特徴として、日本・海外でも、リゾート地にある施設の所有者は民間であるということです。ですから、何か大会やイベントをするとなった場合には、民間と一緒に興行をつくりあげるということになります。例外としてジャンプの場合、ジャンプ台は行政が国の助成金などで運営している場合がほとんどですが、そのほかの競技は民間マターで行われるので、国からの助成金を得られにくいという問題が出てきます。もうひとつは、日本のウインタースポーツは『見るスポーツ』になっていないということ。そのために、莫大な資金を投入して会場をつくっても、プロ野球のように年に何度も試合が行われるわけではないので、回収率が非常に悪いんです」

―そうした現状を踏まえた中で、どのようなことが必要となってくるのでしょう。

「日本・海外ほとんどの国で、最も競技人口が多いのがアルペンスキーです。まずは、アルペンを興業化させることが何より重要だと考えています。それと、日本でメジャーとなるとジャンプですよね。既にジャンプ台を備えた施設はありますし、行政が所有しているので、資金面においてもいろいろとやりやすいと思うんです。さらに、今後力を入れていくべきだと考えているのが、ハーフパイプあるいはビックエアー。なぜかというと、先ほども言ったように、ウインタースポーツは日本ではまだ『見るスポーツ』としての歴史が浅いので、まずは『見やすさ』ということが大事だと思うんです。それと、五輪競技であるということも非常に重要な要素ですね」

―選手にとっても、会場の環境というのはモチベーションを高める要素の一つとなり、重要だと思います。現役時代には、さまざまな国の会場でレースをされたと思いますが、一番印象に残っている会場はどこですか。

「クロアチアの首都ザグレブですね。街中にある国立公園でパブリックビューイングが行われるのですが、レース前のゼッケンを渡すだけの催しに、4万人もの観客が集まってくるんです。コンサートが付随して開催されたということもあるとは思いますが、それにしても4万人はすごいですよね!『明日のレース、○番は○○』というアナウンスがあると、それだけで『ウワーッ』って盛り上がるんです。しかも、レース当日の朝は、首都にもかかわらず、8~9時の1時間は、山までの道のりが僕ら選手専用道路になるんです。加えて、マラソンのように沿道には大勢の人たちが立っていて、僕たちの車が通るたびに声援を飛ばしてくれるんです。ちょっとやりすぎかなとは思いましたけど(笑)、でもそれだけ注目してもらえると、やっぱり選手としては嬉しいですよね」

―海外と日本の違いについては、どのように感じられていますか。

「オーストリアのようなアルペンスキーが国技で、スポーツ文化として根付いている国では、3日間のレースで延べ16万人くらいの集客があります。オーストリアでは、国が観光産業に力を入れていて『オーストリアのスキー場はいい』ということを発信して観光客を呼び寄せているんです。というのも、ヨーロッパにはスキー場が山のようにあるんですね。その中で、自分たちのスキー場をどうブランディングしていくかということは、非常に重要。そうした中で『クラシック5』といわれるような歴史あるスキー場では、アルペンスキーワールドカップが当然ように開催されていて、そのスキー場に行けば、高いクオリティが担保されているという考えが根づいているんです。だからこそ、民間が自発的にワールドカップのような国際大会を誘致しようと努力し続けていて、ヨーロッパでは取り合いになっているんです。何でもそうですが、競争力が高ければ、それだけ質も上がってくる。そもそもそういう仕組みが、ヨーロッパと日本とではまったく違うところです」
IT活用で差別化 モデル会場の必要性
―そうすると、施設の前にワールドカップのような国際大会を誘致することが難しいという壁が日本にはあるということでしょうか。

「いいえ。実は、ウインタースポーツ界では飽和状態のヨーロッパからアジアへという動きがあって、非常に注目されています。そのアジアの中でも、日本ほどの降雪地帯は他にはありませんし、スポーツ産業という点においても、日本は最適。今後は、アジアで肥大化しているスキー、スノーボード人口の受け皿としての役割が求められるのかなと。そうすると、日本のスキー場としての役割は非常に大きいし、価値も高まるはずです」

―そういう中で「見せる」ための会場づくりも重要となってくると思います。

「アルペンスキーやジャンプなど、野外で行われるウインタースポーツには『スタジアム』や『アリーナ』といった、いわゆる箱ものが用意できないんです。それが一番ネックになってくるわけですが、そこで重要となるのがITの活用だと考えています。ITで囲んだ『見えないスタジアム』をつくるんです。ただ観客席から見ていても、何がどうなっているのか、よく分からないとなった時に、選手やレースのさまざまなデータがオンデマンドで取得できるような仕組みを整えれば、それだけで差別化を図ることができます」

―それを具現化させるには、まずはモデルとなる会場が必要になってくるのではないでしょうか。

「その通りです。特に日本では、前例がないとなかなか動き出さないということがよくあるので、まずはモデルとなりそうな会場に、徹底的に投資をして、官民が一緒になって取り組んでいく。そうして、本格的な興業化を進めていくことが重要だと考えています」
(プロフィール)
皆川賢太郎(みながわ・けんたろう)
1977年5月17日生まれ、新潟県出身。幼少期からスキーを始め、常に日本スキー・アルペン界の第一線で活躍。1998年長野、2002年ソルトレークシティー、06年トリノ、10年バンクーバーと4大会連続で五輪に出場。トリノ大会では4位に入賞し、50年ぶりの日本人選手の入賞を果たした。引退後、15年10月に全日本スキー連盟常務理事に就任。17年6月には、全日本スキー連盟スキー競技本部長に就任するなど、スキー産業の発展に尽力している。

※データは2017年8月31日時点
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