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2017年8月17日11時07分

江戸川大学教授小林至氏が考える 『日本版NCAA構想』と『野球スタジアム作り』

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元プロ野球選手で球団経営にも携わった経験をもつ小林至氏に話を聞いた
2017年9月12日~14日、千葉県・幕張メッセで開催される『スタジアム&アリーナ2017』は、スタジアムなどスポーツ施設に特化した総合イベント。世界各国から、最先端のテクノロジーとソリューションが集結する。今回は、9月14日に行われる「大学スポーツの成長産業化(日本版NCAA構想の推進)について」のモデレーターとして登壇する、元プロ野球選手で球団経営にも携わった経験をもつ江戸川大学教授の小林至氏に、日本版NCAA構想や野球スタジムについて話を聞いた。

取材・文/太田弘樹
日本版NCAAについて
「事務局機能をつくることが第一歩」
−文部科学省や大学関係者による大学スポーツ振興検討会議が開かれ、全米大学体育協会(NCAA)を参考に「日本版NCAA」を2018年度に創設する目標を盛り込んだ方針をとりまとめました。まず、NCAAについて教えてください。

「“National Collegiate Athlete Association”の略称で、日本語では「米国大学体育協会」と訳されています。1906年に設立された米国大学スポーツ全般を統括する非営利団体で、現在米国には1123校がNCAAに加盟しており、競技会の開催やスポーツクラブ同士の連絡調整、試合のテレビ放映権などの管理も行い、年間約1000億円という大きな収益を上げています」

−なぜ、日本版のNCAAを創設する必要があるのでしょうか。

「大学スポーツの価値を再認識しようということです。実際オリンピアンの3分の2は、大学スポーツ出身者であったり、東京六大学野球や箱根駅伝など歴史と伝統に彩られた対抗戦も多くあり、日本のスポーツ界に、非常に強い影響力を与えてきました。しかし、それに見合った価値を生み出しているかというと、そうでもない。例えば、野球部員でいるということで、合宿や用具費用など学費とは別に、年間の持ち出しは100万円ぐらいです。加えて、怪我をしたときに、保険がきちんとかけられていないこともある。脳震盪を起こして気絶したというときに、提携している病院がなく、救急病院を探して右往左往ということもあります」

−それでは本場NCAAでは、保険や活動費などはきちんと整っている。

「そうです。NCAAの所属選手は、全て保険でカバーされます。どんなに高度な障害を負っても、死亡した場合でもです。そして、競技に伴う費用は一切かかりません。例えば、野球で使用するグローブ、スパイク、バットなどの用具や遠征費などはすべて大学が負担をします。NCAAは収益の中から、そのための様々な補助事業をしています」

−日本でどのようなことからスタートしていくことが必要でしょうか。

「まずやることは、御用聞きでしょうね。今、大学側が困っていることは何なのか。多くの意見をまとめるところ、簡単にいうと『事務局機能を作る』というふうに、考えたほうがいいと思います。日本でも、高校には高体連、中学には中体連があって、事務局機能や規則の管理、全国大会の主催をしているのですが、大学スポーツだけ、そうした機能体がない」

‐米国のように日本の大学スポーツが収益化されると、どんなことが考えられますか。

「どうもNCAAという名前が走っていて、マーケティングをやって権利を売るということが先行しているように思えます。もちろん権利を売るのは大事なことですが、御用聞きをする中で生まれてくるものだと考えています。バックオフィスの機能を集約した競技横断的な事務局を設立するだけでも、かなり役に立てることはあります。ビジネス化は、プラットフォームを作れるかどうかでしょうね。つまり、全国の大学運動部員を会員組織化してデータベース化する。そのプラットフォームを活用して、個人、大学、連盟がそれぞれマイページを持つことで、成績の管理から、メンバー間の連絡、告知、発信、さらには試合相手や試合会場のマッチングなど、多くの機能をもって、部活動を支援できるようになるでしょう。大学の運動部員は20万人ほどいるといわれています、これだけの数が集まるプラットフォームを、スポンサーしたいあるいは会員にリーチしたい企業も多数出てくるでしょう。そうなれば、会員特典などを通して、運動部員は更に恩恵を受けることが出来ます。たとえば、保険一つとっても、20万人の会員が利用するということになれば、大きなボリュームディスカウントになるはずです」
野球スタジアムについて
「カスタマーファーストの球場作りを」
−米国の野球スタジアムと日本の野球スタジアム。大きな違いは、どのようなところでしょう。

「米国MLBのスタジアムは3分の2以上が公営で、そのスタジアムを球団が365日24時間自由に使えるというのがメリットです。例えば、ミルウォーキー・ブルワーズは、賃貸料が1年間で1ドル(※日本円で約100円)。500億円ぐらいかけて作ったスタジアムを1ドルで使い、収入は全部ブルワーズに帰属します。日本では、北海道日本ハムファイターズの例が1番分かりやすいと思います。ファイターズは、ホームスタジアムである札幌ドームに球場使用料などで、年間約27億円(推定)の売上をもたらしています。さらに観客が2万人を超えた場合は、1人400円ずつ追加で払っていて、2016年4月よりさらに値上げがされました。日本で公営の球場を使うと、こうなるんです。毎年スタジアムに払う金額が100円なのか、27億円なのかは、球団を運営するにあたりとても大きな違いです」

−スタジアムの収入の違いというのは、とても大きな問題ですね。それに加え、日本の野球スタジアムの今後のあり方みたいなものというのは、どのように進んでいくことが理想でしょうか。

「理想をいえば、プロ野球にある程度『公共性』を認めてもらいたいですね。今は、スポーツ庁が誕生し、産業を大きくしようとしています。公共のスタジアムを、民間がある程度収益を上げられるような形で、使用できるようになること。そして『カスタマーファースト』が大切になってくるでしょう。現在は、アスリートファースト。しかし、観客やファンが入場料を支払い、グッズを購入してくれるから、プロスポーツとして成立しています。もう少し言ってしまうと、スポンサーがお金を払ってくれるのは、お客さんが見てくれるから。親会社が応援してくれるのは、たくさんのファンが、自社企業にもいい影響を与えてくれるだろうと考えるからです」

−『カスタマーファースト』。お客さんを1番に考えたスタジアム作りとは、どのようなものでしょうか。

「例えば、ファンなら『選手を近くで見たい!』と思いますよね。公認野球規則(※米国におけるプロ野球ルール"Official Baseball Rules"を翻訳したもの)では、ホームベースからバックネット、ファーストベースからフェンスまで18メートルなくてはいけないというルールになっています。しかし、大リーグの球場はファーストからフェンスまで、約9メートルしかないところもあります。これは、各球団がローカルルールという形を採用しているからです。ファンが主役で、より近くで観戦してほしいと考えたスタジアム作りをしています。日本は、良くも悪くもルールをきちんと守っているから18メートルあります。最近は、各球団様々な席を用意して観客を楽しませていますが、よりお客さんが喜ぶ環境作りをしていくことが大切です」

※データは2017年8月17日時点
(プロフィール)
小林至(こばやし・いたる)
1968年生まれ、東京都出身。東京大学経済学部卒業後、練習生を経てドラフト8位で千葉ロッテマリーンズに入団。退団後、在米7年。その間、コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。2002年から江戸川大学准教授(06年から教授)。05~14年まで福岡ソフトバンクホークス取締役を兼務。

※データは2017年8月17日時点
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