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2013年以降の「急変」(後編)

2017年3月2日13時09分

パラアスリートの就職事情
2013年以降の「急変」(後編)

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障がい者アスリートの雇用を支援する「つなひろワールド」の竹内圭氏に話を聞いた
今、日本のパラスポーツ界は、急激な動きを見せている。2020年東京五輪・パラリンピックの開催が決定した2013年以降「パラリンピック」への関心が高まり、障がい者スポーツには「競技」としての側面があることが広く認知されるようになった。今やパラリンピックを目指す選手たちは「アスリート」であり、2013年以前は「社員として働きながら」だった競技生活は、今ではアスリート契約を結び、競技優先の環境を提示されることも少なくない。

障がい者アスリートの雇用を支援する「つなひろワールド」代表取締役社長の竹内圭氏は、そんなパラスポーツの「急変」を目の当たりにしてきた一人。その竹内氏に、パラスポーツ界の「就職事情」について話を聞いた。

取材・文/斎藤寿子

前編はこちらから!
「神風」となった東京パラリンピック開催の決定
そんな状況を一変する出来事が起きた。2013年9月8日、東京五輪・パラリンピックの開催が決定したのだ。これが、竹内氏やパラリンピックを目指す選手たちにとって「神風」となった。その後「パラリンピック」への関心が徐々に高まり、「競技に専念したい」という選手たちの要望が叶った環境を提示する企業が、次々と現れるようになったのだ。

竹内氏によれば、企業が選手たちに提示する年収の相場は、2014年から年々上がっているという。そのため、より良い条件を求めて、転職する選手も少なくない。

東京での開催が決定する以前は「練習に専念できる環境が与えられる職場」というだけで、無条件に「最高の環境」という認識だったのが、今やそれは「普通」で、加えて遠征費の負担などのオプションが付くことがほとんどだという。それだけ「アスリート」としての認識が広がっている証といえる。

こうした状況下、日本のパラスポーツ界で今、よく聞かれる言葉がある。それは「バブル時代」。あまりの急激な変化に、その反動が2020年以降に起きるのではないかと不安視する声も少なくない。打ち上げ花火のように一過性のもので終わると危惧するのは、竹内氏も同じだ。

「数年前は、パラのトップアスリートでも難しかったのに、今ではまだそれほど実績のない選手にまで、非常にいい条件が提示されることもあるんです。もちろん、企業がパラスポーツを応援してくれるのはとてもありがたいと思っています。ただ、これが本当に続くのだろうかという懸念と、そして若い選手たちがこの状況を当たり前だと思ってしまう危険性もはらんでいると感じています」

竹内氏は今、若手アスリートとの面談には時間をかけ、慎重さを忘れないようにしている。

「口では『パラリンピックを目指す』とは言うけれど、『じゃあ、そのために自分はどうしていこうと思っているのか』と聞くと、具体的な答えが返ってこない選手もいるんです。そんなんで出れるほど、パラリンピックは甘くはありませんし、就職しても、選手も企業も幸せにはなれません。競技の実績というより、マインド的な部分で、特に若い選手には覚悟と責任を持つように話をしています」
現場にこそあるビジネスの種
パラスポーツの競技会場に足を運ぶ中、竹内氏自身も健常者と障がい者がともに行える「車いすソフトボール」を始めた
さて竹内氏といえば、2016年リオデジャネイロパラリンピックでの応援の姿が話題を呼んだ。ラグビー日本代表のサクラのジャージを着て、頭には日の丸が描かれた鉢巻をし、割れんばかりの声を出し続ける。その姿は、現地のテレビ局や日本国内のメディアからも取材を受けるほど注目を浴びた。

竹内氏はふだんから、パラスポーツの競技会場に足を運んでいる。国内に限らず、時には海外にも行ってしまうほどの熱心ぶり。しかも、単に観戦に行くわけではない。

一眼レフカメラを持って、自ら取材をし、自社で運営する障がい者スポーツ専門情報サイト「Sports News(スポーツニュース)」で、結果や選手のコメントなどを掲載している。休日を返上してまでやる理由は何なのか。

「報道という意味合いで、選手たちの活躍を広く世間に知ってもらいたいという気持ちから始めたことではあるのですが、自ら会場に足を運ぶことで、ほかにもメリットが生まれているんです。例えば、支援した選手のフォロー。直接会って話をすることで、選手の現状が分かるので、細やかに対応することができるんです。また、各競技や選手のさまざまな情報を得ることができるのも、現場に行くからこそです」

当面の目標は、3年後の2020年東京パラリンピックに50人以上の選手たちを送り出すことだ。「つながる・ひろがる」を意味する「つなひろワールド」。これからもパラアスリートと企業をつなげ、パラスポーツをさらに広げていく。
《プロフィール》
竹内圭(たけうち・けい)
1984年茨城県生まれ。筑波大学体育専門学群を卒業後、株式会社ザメディアジョンに入社し、採用コンサルティング業務に従事。2012年、株式会社つなひろワールドの常務に就任し、2015年1月より代表取締役に。障がい者アスリートと企業をマッチングする「障害者アスリート雇用支援事業」を展開しているほか「障害者法定雇用率達成のための勉強会」など、全国各地で講演・セミナーを開いている。HP:つなひろワールド

※データは2017年2月23日時点
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