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2016年12月6日15時43分

元アスリートが語る スポーツの仕事「やる」から「つくる」へ- Vol.9–元スカッシュ選手 渡辺祥広さん~後編~

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クラブを作るために必要だった「資金」と「場所」
~第9回~
渡辺祥広(わたなべ よしひろ)さん / 46歳
スカッシュ選手→スカッシュクラブ経営(「エスキューブ」キャプテン)

スカッシュクラブを立ち上げる決心をした渡辺さん。しかし「資金集め」は苦戦したという。

「スポーツ選手っていうことで、銀行からお金を借りるのは相当不利でしたね。先の保証も事業の実績もないですから、その時はそこそこ稼いでいたとしても『身体を壊したらどうするんですか?』って言われてしまう。もう必死ですよ」

銀行の信用を得るために会社を立ち上げ、なんとか融資を受けることができたが、それでもお金が潤沢にあるわけではない。どれだけ施工費、維持費を押さえて大きな施設を作るかが、次の課題。場所は、住宅地から離れた倉庫を安く借りて、その中にコートを作るプランに決めた。スカッシュコートを作る会社のオーナーが、クラブの共同経営者としてタッグを組んでくれたのも幸運だった。
エスキューブ横浜を施工中に試打する渡辺さん。資金、場所など様々な面で課題があったという
07年8月、横浜市新羽町にコート4面を備えたスカッシュスタジアム「SQ-CUBE(エスキューブ)」を開館。翌年には、札幌に2号店を。さらに10年には、さいたま市北区に3号店をオープンと、短期間で経営は3店舗に広がった。

「見た目には派手なんですが(笑)、実は札幌のお店は元々あったスカッシュクラブから『老朽化してきたので、譲りたい』というお話をいただいて、そこに手を入れてリニューアルオープンさせたという経緯なので、ほぼ居抜き物件でした。さいたま店は、1階がスーパーマーケット、2階に大きな100円ショップが入った商業ビルに入っているので、人がたくさん集まります。でも、そこもビルのオーナーが『これからはスカッシュが流行るんじゃないか』と思って、先にコートを作ってしまったという物件。その方にお声がけしてもらって、経営を任されている…というわけなんです」
最初から、経営スキルがあるスポーツ選手はいない
横浜に最初のクラブをオープンしてから、今年で9年目。

現在3店舗合わせて会員は1200人ほどだが、収入は現役時代と比べてさほど変わらない、という。「金銭感覚が狂うほど、儲かってみたいんですけどね」と笑う渡辺さんに“クラブを長く経営していくコツ”を聞いて見た。

「スポーツ選手が、最初から経営のスキルなんて持っているわけがない(笑)。だからまず、一緒にやれる、信頼できるパートナーを見つけることが大切だと思います。そして、専門家や経験者、現役時代に応援してもらった人たちにも声をかけて、助けてもらう。でも、そのためには自分がしっかりとビジョンを持っていないとダメです。『こうするためにはどんなやり方が良いのか』『こんなことをやりたいけど、いいスタッフがいないか』という具体的な話ができて、初めて人は相談に乗ってくれる。これが2つ目。さっきは“スポーツ選手に経営のスキルなんて無い”と言いましたけど、一方では“スポーツマンは賢い。そうでなくちゃ試合に勝てない”とも思っています。それは、どんなスポーツでも変わらないんじゃないでしょうか」

『ビジョンを描いて、そして勝つ』ことが好きな渡辺さん。今、チカラを注いでいるのが、2015年から自分が中心となってスタートさせた国内オープン戦「ダイナムCUP」の主催・運営。スカッシュの賞金大会としては、国内最大級。エスキューブを会場に、年2回開催。大会の“売り”のひとつが、ニコニコ動画での生中継だ。

「ニコ生での中継は今回で3回目。1回目は4万7000アクセス、2回目が5万2000アクセスと伸びて来ているんで、今回もそのぐらいは行きたいなと思っています。やっぱり、会場で試合を見られるお客さんは、いくらがんばっても何百人。それがネットに上げることで、何万人にもなる。もちろん反響は大きいし、スポンサーの方々にも喜んでもらえます。中継には、ちゃんとコマーシャルも入れているんですよ」
国内オープン戦「ダイナムCUP」の主催・運営を行う渡辺さん。スカッシュをメジャースポーツにするために今後も様々な施策を行いたいと話す
大会開催中の3日間は、ずっと動きっぱなし。運営サイドの細かな仕切りから、司会進行、ニコ生中継との連携、スポンサー対応、そして何と、選手として試合までこなす。

「正直、疲れるけど、やりたい気持ちがあるうちはプレーもしたいんですよ」と、笑った後に“今回も楽しかったね”では終らない胸の内を教えてくれた。

「この先にどう繋げていくかを、もう一回しっかり考えることが必要かなと思っています。言ってしまえば、今まで、大きな目標にしていた“2020年東京オリンピックの追加種目になる”という夢がなくなってしまった。だからこそ、若い選手にどうやって希望を与えるか、子供たちにどんな夢を与えるか。日本の中で、スカッシュを広げていく施策をしっかりと考えなくちゃいけない。やっぱり、ここだけの盛り上がりでは終りたくないんです。賞金も今は100万円だけど、これが500万、1000万になって優勝者が『これでハワイに遊びに行ってきます』ってインタビューで答えるぐらいの大会にしたい。そうやって、ひとつひとつのハードルを越えていかないと、僕が目標にしている、メジャースポーツの仲間入りはできないと思っています」

では最後に、セカンドキャリアのために何をすればいいか。現役スポーツマンに渡辺さんのアドバイスを。

「選手をやっている時に、いかに“その先のこと”を考えているか、ですかね。例えば、自分が今やっている競技の中でセカンドキャリアを探すのか、あるいはまったく違う世界で仕事を始めるのか、だけでもいい。日本一になってオリンピックでメダルを獲ったような選手でも、セカンドキャリアで躓くことがあるのは、そこを考えていないからじゃないかな。大抵の人は“まぁ、なんとかなるだろう”って、思うんですよね。僕も完全にそっちのタイプでしたから、1年間を無駄に過ごしてしまった。“先のこと”をイメージすると、周りで他の人がやっている仕事にも興味が出てくるし、やっていることの意味が分かってくる。僕にできるアドバイスは、これですかね」
(プロフィール)
渡辺祥広 / 1970年2月1日生まれ、神奈川県横浜市出身。1995年、全日本スカッシュ選手権優勝。以降5連覇を含む通算7回の優勝を飾り、2003年に選手として第一線から退く。07年8月、横浜新羽町にスカッシュクラブ「 SQ-CUBE(エスキューブ) 」を開設。現在は札幌・さいたまと合わせて3店舗を経営。

※データは2016年11月29日時点
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