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2016年11月15日13時55分

「頭ごなしに教えるのではなく、選手自身が答えに気づくような指導が大切です」スポーツの仕事現場 メンタルトレーナー笠原彰さん(後編)

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知りたい!就きたい!スポーツの仕事現場
連載8回目~スポーツメンタルトレーナー編~
メンタルトレーナーとして活躍中の笠原彰さんに話を聞いた
2020東京五輪に向け「スポーツ業界で働きたい!」と思っている学生や転職を希望している人が多くなる中、どんな職種があるの?どんなスキルが必要なのか?など分からないことが数あり、仕事の実際を知ることが意思決定には重要となる。そこで、スポーツを仕事としている人にインタビューし、仕事の“あれこれ”を聞いた。

メンタルトレーナー笠原彰さんスポーツの仕事『前編』はこちら!

取材・文/太田弘樹
「裏付け」と「肉付け」が重要
アマチュアからプロの選手まで、幅広くメンタルトレーニングを行っている笠原彰さん。選手を指導するとき、具体的にはどのようなことをしているのだろうか。プロテストを受けるゴルファーを例に話を聞いた。

1 カウンセリング
「まず、『プロフィール』『どのようなことで悩んでいるか』などを聞き、各アスリートにあったサポートをしていきます。また遠方の人は、スカイプなどを利用して話を聞きます。プロテストに挑むゴルファーであれば、受かるためにメンタル的に足りないものはなんですかと聞いて、その悩みに応じてサポートすることになります」(笠原さん以下同)

2 トレーニング期間の決定
「メンタルトレーニングは1回50分。トータルで10~17回行います。期間は選手によりますが、1番長い人で1年。ゴルファーにはプロテストがあり、それに落ちた翌日から来年に備える人もいます。大半の選手は、半年間が多いです」

3 トレーニング開始 ルーティーンの指導
「ルーティーンの指導を行います。ゴルフでは、プリショット・ルーティーンといい、ショットに入る前に、繰り返えし行う同じ動作や心の準備のプロセスです。ルーティーンに関しては、うっすらと知っていても正確に知らないことが多いんです。正確なルーティーンについての説明とトレーニング。あとゴルフは、必ずミスをしたりして、集中力の浮き沈みが激しいので、集中力を回復するためのリフォーカスのルーティーンをお教えしたりしますね。この2つを中心にその選手のお悩みに応じたテクニックをアドバイスさせていただくという感じです」

メンタルトレーニングをする中で、一番気をつけていることは「裏付けと肉付け」だということ。

「まずじっくり話を聞く。そうすると、ルーティーンなどメンタルテクニックをすでに行っている選手はいるんです。ただ、それがスポーツ心理学的根拠のあるテクニックだと気づいてないんです。何となく経験上でやっているから、選手も疑心暗鬼。だから『あなたが使っているメンタルテクニックはスポーツ心理学ではこういう根拠があるから、自信を持ってやりなさい』っていうふうに、きちんと科学的に『裏付け』をしてあげると、選手も「いままでやってきたことは間違えていなかった」と気がつき、自信がつく。そうすると結果も出るようになるんです」

選手が、なんとなく使ってきたメンタルテクニックを心理学的根拠に基づいていると説明してあげることで、自信に繋がるという。しかし、それでも結果がでない人はどうすればいのか?

「そういう人は、過去に行ってきたメンタルテクニックが、ちょっと不十分なことがほとんどなんです。例えば、ルーティーンをやっているんですけど、それが雑なんですよ。雑なルーティーンを、良いルーティーンにするために、『肉付け』をしてあげます。最初は、それを教えても分からないことが多いんです。そうすると、質問をしてくるんですよね、それに対して答えてあげると、選手が気づいてきます」

笠原さんのメンタルトレーニングは、質疑応答型。メンタルテクニックを押し付けるのではなく、あくまで、選手たちたちが今まで使っていたものに『裏付けと肉付け』してあげ、自身が答え見つけていくことが大事だという。
自身の経験論ではなく
研究報告書や論文を見て勉強することが大切
大学で授業を行うほか、セミナーや本の出版、トークショーなど幅広く活動している
現在、大学の准教授をしながら、スポーツ選手にメンタルトレーニングを指導している笠原さん。給与はどのようなものなのだろうか。

「准教授として、大学で学生たちを教えているのが収入源です。スポーツ選手を教えるのは、あくまで研究の一環なんです。心理的サポートのデータを、要は論文だとか学会発表に組み入れていくという感じです。私の場合は、その内容を本にして出版しており、そこからセミナーを開催しているのが、メンタルトレーナーとしての主な収入になります。選手といっても、やはりまだ稼げていない人が大半なので、レーニング代は本当に少額、下手すれば“ファミレスで食事おごります”ってレベルです」

大学、先生により異なるとは思うが、笠原さんの大学では届け出をきちんと出していれば副業は可能ということで、幅広い活動ができているが、やはりメンタルトレーナーだけで食べていくということは大変だという。

「料金設定は、いろいろあります。米国だと五輪選手を見ているようなトップレベルになると、30分500ドル(※約5万円)という世界ですが、日本ではこの職業で生計を立てるというのは中々難しいです。やはり、本業があり、メンタルトレーナーが副業というスタンスが一番良いと思いますね。目指している人であれば、まず心理学が勉強できる大学院に行き博士号を取得し、どこかの大学で先生になり研究を続けながら、選手を指導してくというのが一番いいと思います。しかし、それには時間がかなり必要になります。今すぐなりたいと考えている人は、私も行っていますが、スポーツメンタルコーチ養成講座など、育成に力を入れているところがありますので、そういったところの門をたたくことも選択の一つです。そうすれば、仕事を続けながら、メンタルトレーナーとしての勉強もできますからね」

最後に、この仕事に就くためにはどのようなスキルが必要なのかを聞いた

「スポーツ心理学・メンタルトレーニングに対して、興味があり面白いと思う人。やっぱりそれが一番大事です。ただ体型を維持しておいたほうがいいです。単純に、体型を気にするアスリートもいるので。極端に痩せていたり、太っていたりする人にスポーツ選手の気持ちわかるのかなって疑問持たれちゃう。人を教える前に、自身の体重管理も大切です。あとは、自身の経験論を当てはめないこと。例えば、野球をしていても「野球の事は全て分かります」という風にはなりませんよね。個人の経験は、他人に当てはまるとは限りません。今まで行われた研究や論文、根拠に基づいて指導することが大切です」
(プロフィール)
笠原彰(かさはら・あきら)さん
1968年、東京生まれ。作新学院大学准教授 メンタルトレーニング指導士。スポーツメンタルの現場でコンサルティング指導を3000時間。海外でプロ・コンサルタント資格を取得できる基準をはるかにしのぐ指導実績を持つ。スポーツ分野では、野球・ゴルフ・テニス・サッカー・陸上・バレーボール等アマチュアからプロ、コーチまで多数の指導を行っている。HP:メンタルワークアウト
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