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2016年10月18日18時10分

企業とアスリートの関係 -Vol.1-「城北信用金庫」(後編)

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城北信用金庫・理事長を務める大前孝太郎氏。アスリート採用で重視しているのは、人間性と引退後にどういった活躍ができるかという点
2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、スポーツ、そしてアスリートに注目が集まる今。企業とアスリートの関係にも変化が生まれている。双方にとってメリットのある関係を築くために、何が必要なのだろうか? 選手やスポーツ事業を支えている企業人に話を聞いていく。

連載1回目は、現在7名の現役アスリートが職員として競技活動を続けている「城北信用金庫」。理事長を務める大前孝太郎氏に話を聞いた。前編はこちらから!

文・奥田高大
写真提供・城北信用金庫
競技以外にも目を向けられる人を採用する
城北信用金庫のアスリート採用は、日本オリンピック委員会(JOC)が実施している就職支援制度「アスナビ」が中心。採用方法も一般の職員とは異なり、エントリーシートや提出書類などは重視されておらず、面接が中心。入庫後、約2週間は他の職員と同様、一般的な研修を受け、その後はそれぞれの練習を開始。アスリート職員には、栄養研修、マナー研修なども実施している。

採用の際に大前氏が重視しているのは、人間性と引退後にどういった活躍ができるかというところだ。

「素晴らしい成績を残していても、怪我をするかもしれませんし、調子を崩すこともあるでしょう。ですから、これまでにどういった経験をして、競技を続けてきたのかなどを重視します。例えば、16年に入庫したフリースタイルスキーの鈴木沙織は、一度競技を諦めて美容師になったのですが、その後、諦めきれずに種目を変えて、再起を果たしたストーリーを持っています。そしてもう一つ、重視しているのは、引退後にどういった仕事を任せられそうかという点です。例えば、地域振興や地元商業を盛り上げる企画を考えてもらったり、プロモーションや広報業務など、金融業務以外で活躍してくれそうかどうかを見ています。もちろん、実際、引退後にどうなるかはわかりませんが、いずれにせよ『スポーツしか知らない、興味がない』という選手は採用に至りませんね」
2016年に入庫したフリースタイルスキーの鈴木沙織は、一度競技を止め、美容師の道に。しかし、諦めきれず再度現役に復帰。競技だけではなく、様々な経験をしていることも採用の鍵となった。
こうした考えから、会社での勤務時には社会や地域のこと、スポーツとは別の世界のことに目を向け、それに対して何ができるのかを考えるように伝えているという。

「練習を重ねて、五輪に出場し、メダルを獲ることができれば、それは素晴らしい。しかし『それで一生、生活できますか?』と、選手にはいつも問いかけます。もちろん、なかにはそうした選手もいるかもしれませんが、現実にはそうでない選手のほうがずっと多い。アスリートにとっては夢がない話かもしれませんが、引退したあとのほうが人生は長いことを考えるべきだと思います」
意識が変われば理解者も増える
アスリート職員を雇用するメリットとして、社員の一体感を促進するという点はよく語られるが、実際のところはどうなのだろうか?

「例えば、従業員が数十名から数百名前後の規模の会社であれば、アスリートが1人いることで、従業員の一体感の向上などの効果が期待できるかもしれません。しかし、1000人以上いるような規模の企業では、アスリートを1人採用しても、社内的にも、社外的にもよほどアピールしていかないと、経営者が期待するような効果は難しいでしょう」

雇用に関する費用は同金庫の場合、給与体系は一般的な職員と同様だが、大会成績に応じて、報奨としての手当を支給する制度を設けている。 さらに、よりよいパフォーマンスを発揮することを期待して栄養手当などが支給されるほか、遠征費や体のメンテナンス費なども負担。フェンシングなど、活躍の舞台が海外になるスポーツは、費用がかかる傾向にある。

同金庫では、アスリート職員の費用対効果や貢献度を測る指標などは用意していないが、マネージャーと選手が相談して目標を設定するほか、同僚の選手が講演するイベントのサポート、試合の告知を選手自らが行うなど、社内・社外で競技以外の活動をすることもある。また、城北信用金庫にはマネジメント事業をおこなう子会社があり、同金庫との雇用契約とは別に、主に肖像権の管理を中心にアスリート職員は、マネジメント契約も結んでいる。

最後に、企業とアスリートがよりよい関係を築くためには、アスリート自身が意識を変えていく必要があると、大前氏は話してくれた。

「企業がアスリートを雇用する際に、何かしらの効果を求めることは当然のことです。だからこそ、アスリートは社会的な自分の立ち位置や周囲との関係性、なぜ自分が契約・雇用されているのかを、意識する必要があると思います。そして、そうした意識を持っているのならば『契約を結んでいる企業に対して、何ができるのか?』を行動や態度で示していく必要があります。もちろん、競技に集中しなければいけませんが、そのような選手が増えれば、もっと理解者も増えるはずです」

7人の職員には「やっぱり五輪に出て欲しい!」と話す大前氏。しかし、それは金庫の知名度向上以上に「選手として、一つの節目がつくはず」という思いから。同金庫所属の選手が活躍し、企業とスポーツの新しい関係を見せてくれることを期待したい。
(プロフィール)
大前孝太郎(おおまえ・こうたろう)氏
1964年2月19日生まれ、東京都出身。87年慶應義塾大学経済学部経済学科を卒業。住友銀行(現 三井住友銀行)等を経て、98年より内閣官房特別調査員。2001年より内閣府参事官補、企画官。06年4月慶應義塾大学総合政策学部准教授。09年6月より城北信用金庫常務理事、12年専務理事を務め、15年に理事長に就任。
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