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2016年7月25日17時43分

元アスリートが語る スポーツの仕事「やる」から「つくる」へ- Vol.8–元競輪選手 後藤圭司さんパート2~後編~

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音楽業界への進出、新しいマーケット
ゴスペラーズ安岡優さん(写真左)の怪我の治療がきっかけとなり、今では様々なアーティストのケアも行う
~第8回目~
後藤圭司(ごとう けいじ)さん/42歳
競輪選手→整骨院オーナー(「KGボディメンテナンス整骨院」代表)
関連記事:元アスリートが語る スポーツの仕事Vol.8–元競輪選手 後藤圭司さんパート2~前編~

シリーズ第1回目の記事でも少し触れたが、整骨院があるフットサルパークは、ミュージシャンたちが中心になって作った団体MIFA(ミーファ)が運営している。

もちろん、当初は仕事で直接の関係があるわけではなかったが、MIFA主催のフットサル大会に救護スタッフとして参加したり、隣接するバーベキューパークでのパーティーを一緒に楽しんだりしているうちに、たくさんのミュージシャンと仲間付き合いをするようになった後藤さん。ある日、こんな依頼が舞い込んで来る。

「パークに遊びに来ていたゴスペラーズの安岡優さんが、ひどい肉離れを起こしちゃったんですね。それですぐに僕が治療をしたんですけど、話しを聞いたら、その何日か後に全国ツアーがあると。『激しいターンや踊りもあるので肉離れの影響が心配だ。どうにかしてください』と相談を受けて、ツアーに同行する仕事を引き受けたんです。そのツアーの舞台裏で、僕が彼の身体のケアしているところをライブイベント制作会社のスタッフの方が見ていたんですね。『後藤さんは、こういうメンテナンスもやるんだ』というのが広まって、それから“ライブツアーの同行トレーナー”という予想もしていなかった仕事が生まれました」

今では、ゴスペラーズやSEKAI NO OWARIといったアーティストたちからも、ツアー同行の依頼が来るという。会場の中に割り当てられた後藤さんの仕事部屋で、いったいどんなことが行われているのだろうか。
コンサートのバックステージでケアを行う後藤さん
「今のミュージシャンのライブは、演奏しながら踊ったり、駆け回ったり、様々なパフォーマンスが求められる2時間以上の全身運動。ほとんどアスリート並みに肉体を使うし、ツアーともなれば疲労の蓄積はどんどん大きくなります。最悪の場合"体調不良でライブがキャンセル!"なんてこともあり得るわけですから、身体のコンディションを整えるのは、意識の高いミュージシャンなら当然考えているんですよ。それに、身体の動かし方ひとつで発声が良くなったり、胸郭を広げてあげることで息が吸いやすくなったり、メンテナンスが『音』にも影響するのが段々と判ってきた。カラダが動くし、声も出るし、パフォーマンスが上がるということで、撮影が入るような大きなライブでは特に声がかかるようになりましたね」

こうしたライブの舞台裏仕事が面白い、と思うのにはひとつ訳がある。それは“競輪”に似ているということだ。

「身体のメンテナンスをする→リハーサルをする→ご飯を食べる→準備をする→スタッフ全員が意識を集中→本番→再度メンテナンスをする、っていうのが雰囲気も含めて、ものすごく似ているんですよね。何千人、何万人という人たちの前で、練習して来たことを100パーセント、本番で発揮する。逆に、プレッシャーもありますよ。ひとつ間違って、メンテナンスでどこかの筋を違えちゃったとしたらパフォーマンスを下げることになってしまう。下手したらライブ自体をダメにしてしまうかもしれない。そういうリスクがあるから、もちろん真剣に取り組まなきゃいけない。本当、すごく似ています」
整骨院、ツアー同行、そしてもうひとつの仕事は「町おこし」
新たな仕事は「町おこし」プロジェクトのプロデュース。茨城県・境町にサイクリストたちに向けたバーベキューもできるカフェ「CORG’S(コーグス)」をオープンさせた
実はもうひとつ、後藤さんが夢中になって取り組んでいる「新しい仕事」がある。それが、茨城県・境町の「町おこし」プロジェクト。後藤さんを誘ったのは、整骨院の隣りにあるバーベキューパークの社長だった。

「その人は『昔、競輪選手になりたくて試験も受けた』っていう本格派。話をするうちに共通の友だちがいることも判って意気投合したんです。そんな時、彼に境町から“食”での町おこしの相談が来ました。聞けば、近くの利根川の河川敷に長いサイクリングロードがある、ということで『一緒にどうだ?』と声がかかったんです」

子供の頃から自転車に深く関わってきた元プロ競輪選手のキャリアを買われて、プロデューサーとして関わることになった町おこしプロジェクト。まずは今年3月、利根川近くの茨城県猿島郡境町にある「道の駅さかい」の敷地内に、サイクリストたちに向けたバーベキューもできるカフェ「CORG’S(コーグス)」をオープンさせた。

できるだけ時間を作って境町に通い、カフェに立ち寄る自転車乗りたちに声をかけては、会話を交わす。自転車談義から、カフェのフードへの感想、そしてここへ来た理由などなど…みんながもっと楽しくなるヒントを集めるためだ。

大きな夢は「東日本最大のサイクリングロード」を作ること。まずはここから、かつての後藤さんの仕事場、群馬県にある競輪場「ヤマダグリーンドーム前橋」までのルートをつなぐ計画を進めている。

「プロデューサーとして、契約料を毎月いただいているので、それだけの貢献をしなきゃいけないし、結果も出さなきゃいけない。だけど、まずは“自分が楽しいからやりたい”っていうのが基本なんです。そして、ここで共通しているのは“元気じゃないと出来ない”っていうこと。自転車乗るのも、食べるのも、身体が元気じゃなかったら思いっ切り楽しめないですよね。『うわーこの肉うめぇ、よーしカラダ動かそう!』っていう元気が生まれるから、そこがいろんな人が集まって来る場所になるんだと思います」

セカンドキャリアをスタートさせておよそ2年。

整骨院を軌道に乗せ、新しい試みにもチャレンジし始めている後藤さん。その言葉は、前出の吉田さんが言うように“いつも前向き、ポジティブ”だが、最後にこんなつぶやきを聞かせてくれた。

「1を10にするのはある程度のスキルがあればできると思うんですけど、0から1を生むのは、ものすごく大変じゃないですか。2年前に競輪を辞めて、まったく新しいことを始めて、その時は夢も語っていましたけど、内心は『俺、本当に大丈夫かな』っていう不安な気持ちも一杯あったんですよ。そこを突破できたのは、振り返ってみるとすごく単純で“目の前の人を治したい、この人の痛みをどうにかしたい”と思ったことが、どうにか上手くいって、人を呼んでくれて、その積み重ねで成り立っているんです。それがこの1年ぐらいの出来事ですね」
(プロフィール)
後藤圭司 / 1973年12月19日生まれ、静岡県裾野市出身。1996年にプロ競輪選手としてデビュー。2001年にS級入り、通算勝利数は139、通算優勝回数7。2014年8月1日、東京都豊洲に「KGボディメンテナンス整骨院」を開業。同年9月29日に競輪選手としての競技生活から引退。

※データは2016年7月20日時点
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