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2016年7月20日14時00分

しくみやシステムでスポーツ界を支える「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」とは【前編】

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女性が抱える課題を包括的に支援するプロジェクトがスタート
オリンピックにおいて、日本では男性よりも女性のメダル獲得率のほうが高いことはご存知だろうか。 女性が参加できる競技・種目数が増加していること、また、途上国や宗教的制約がある国に比べて、日本はスポーツに参加しやすい環境が整っていることも理由のひとつ。 そのデータをふまえ、平成25年度より文部科学省委託事業として日本スポーツ振興センターが取り組んでいるのが「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」。 身体的な女性特有の課題や、出産・育児などライフスタイルの変化による競技続行の難しさなど男性とは異なる状況や課題を包括的に支援するためのこのプロジェクト。

日本スポーツ振興センターは、国立スポーツ科学センターと味の素ナショナルトレーニングセンターがある「西が丘地区」を日本のハイパフォーマンススポーツの拠点「ハイパフォーマンスセンター」とし、スポーツ医・科学・情報面からの研究・支援においてオリンピック・パラリンピック競技を一体的に捉えた機能強化を図っている。 その中でも、ハイパフォーマンスセンターの機能を集約して推進されているのが、女性アスリートの戦略的強化のための調査研究と強化・支援のプログラム開発・展開を行う「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」。女性特有の課題に対応した医・科学サポートプログラムや女性アスリートの強化のためのモデルプログラムの開発、実施、また、女性特有の視点や観点とアスリート時代に培った技術や経験等を兼ね備えた女性エリートコーチをスムーズかつ即戦力指導者として育成するためのモデルプログラムの開発などに取り組んでいる。 スポーツに関する注目が集まる今、 日本スポーツ振興センタースポーツ開発事業推進部の山下修平さんにお話を伺った。
明確な成果が出たからこその本スタート。いきいきとした女性がいる社会は、きっと輝いている!
「女性アスリートへの支援を振り返ると、2011年、ロンドンオリンピックを前に文部科学省委託事業マルチサポート事業において実施された支援プログラムが一つのターニングポイントと言えると思います。マルチサポート事業の趣旨からすると、当初からメダル獲得のために女性アスリートをサポートしようという戦略的な意図であったと考えられます。そして、ロンドンオリンピックを終えての検証を経て、2013年度からは文部科学省の委託授業として、調査研究事業と支援プログラム、戦略的強化プログラムが3年間、実施されました。日本スポーツ振興センターは、調査研究、支援、戦略的強化の3つの事業を受託し、2013年度から2015年度まで実施してきました。また、調査研究事業は、日本スポーツ振興センター以外にも、いくつかの大学で、それぞれが研究課題を設定し、実施されました。女性アスリートへの支援が重要であるという認識はあったものの、研究・開発の途上にあることがスポーツ基本計画にも指摘されています。 3年間の取り組みを経て、本年度(2016年)から、改めて日本スポーツ振興センターがスポーツ庁委託事業を受託し、新たなプログラム開発を行うとともに、いくつかの大学等の研究機関で行われた調査研究の知見を集積する準備も進めています。」

2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けての具体的な目標値とは?

「国のスポーツ政策、施策は、スポーツ基本計画として示されており、その中に国際競技力向上に関する政策目標も示されています。ただし、その中で女性アスリートについての目標は明確に示されていませんが、女性アスリートの競技力の向上は、重要な課題であることは明示されています。一方で、女性の活躍を加速するための政策も動いています。女性が活躍できる社会というのは、女性にとって良いという視点だけではなく、日本社会の在り方をより良く変えていく力があるという視点も重要な視点とされていると感じています。その中で、オリンピック・パラリンピックに出場するアスリートたちの活躍は、その国の社会の鏡にもなる側面を持っているので、女性アスリートたちがしっかりと結果を出せるようサポートしていくのは、スポーツ界にとっても、社会的にも、とても重要なことであると、女性アスリートを対象とした事業を担当して感じています」

調査研究を通じて感じた課題とは? 「男性アスリートに比べ、女性アスリートのほうが競技スポーツからの離脱が深刻です。統計上わかっている、スポーツを実施している女子がスポーツから離れてしまうタイミングは、中学生から高校生に進学するタイミングです。高頻度でスポーツを行っている(部活動等)女の子たちが、高校進学を機に激減します。その背景には中学生期に女性が直面する体型の変化、男子と比べて女子の試合機会が少ない競技もまだまだあることなども理由のひとつだと考えられます。そして、オリンピックやアジア競技大会には、男性アスリートと女性アスリートがほぼ同規模で出場しますが、監督やコーチ陣は圧倒的に男性が多いのが現状です。女性は競技生活引退後にコーチという選択肢をあまり選んでおらず、ハイパフォーマンススポーツでの活動に残っていく人が男性に比べて少ないのではないかと考えています。社会的・文化的背景(結婚して家庭に入る、子育てに専念するなど)によるものもあるかもしれませんが、高い競技レベルで活躍した女性アスリートが女性特有の視点や観点とアスリート時代に培った技術や経験等を兼ね備えたコーチとしてスポーツに関わる機会が少ないのは残念なことだと考えています。女性チームや競技者の競技力向上を考える際に、女性の視点や観点、意見が取り入れられているのかということは重要な視点です。また、女性に対する取り組みを女性だけで行わないことも大切だと考えています。性別を問わずにさまざまな立場の人たちで、女性アスリートが世界の舞台で活躍できるために、包括的な取り組みを行っていくことで、女性アスリートが活躍できる可能性を広げていく視点が現れると思います。」

文化的・社会的背景に伴い、男性アスリートよりも不利な環境に置かれることもある女性アスリート。競技力向上のために、また未来のトップ女性アスリートを増やしていくために、行政がスタートした取り組みとは? 後編に続きます。
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