Home > 特集・連載 > 酔いどれDの妄想一献“スポーツのある風景” 第4話『愛すべき劇画的個性たち 落合博満から大谷翔平までパ・リーグが育む土壌とは?』(後編)

2016年5月30日11時23分

酔いどれDの妄想一献“スポーツのある風景” 第4話『愛すべき劇画的個性たち 落合博満から大谷翔平までパ・リーグが育む土壌とは?』(後編)

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臨時工を経て25歳でプロ入りした落合博満
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かつてパ・リーグで異彩を放ったひとり“マサカリ投法”の村田兆治。年齢66、今でも時速135キロの速球とフォークボールを投じる強者。現役時代の鬼気迫るマウンド姿に何度も立ち会った。当時ロッテ・オリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)の1番から9番までのオーダーは、実に味わいのある個性派揃いだ。中でも“神主打法”落合博満は特別な佇まいだった。

1983年ロッテの本拠地、川崎球場で行われたヤクルトスワローズ(現・東京ヤクルトスワローズ)とのオープン戦。この日のお目当ては、若き3冠王・落合と早稲田実業高校1年生から甲子園の主役となり“大輔フィーバー”を作った荒木大輔。

舞台は今は無き川崎球場。バックネット裏の急な階段を登りきると、潮風と共に工業地帯からの石油の匂いがした。すぐ左隣にある競輪場からは、ラスト1周を知らせる鐘、ジャンの音がけたたましく響く。その音を追いかけて、ギャンブラーたちの歓声が波となって球場に押し寄せてくる。一攫千金の夢を背負った一団がゴールを駆け抜けた後、短い歓喜と溜息。やがて青空の下、川崎球場は打球の音だけになる。そんな中、試合前のバッティング練習で初めて落合の姿を生で見た。

秋田工業高校時代、上下関係が嫌で、ほとんど練習には顔を出さないのに試合ではずば抜けた活躍をした事、東洋大学に進学するも先輩との関係を嫌い中退して秋田に帰った事などを、同じ秋田出身の同年代の知人から聞いた。そして再び上京し、東芝府中で臨時工として働きながらノンプロで活躍。

それがスカウトの目に留まり、ロッテにドラフト3位で指名を受けてプロの世界に足を踏み入れた。臨時工という気まぐれで危うい存在からプロ入りのチャンスを掴む強運。25歳での入団、遠回りに感じる道のりが、強烈な個性を育んだのだろうか。落合の個性的な打撃フォーム“神主打法”は、バットを立て、すり足で踏み込み、手首のリストを生かしてボールをたたき、広角に打ち分ける。

バッティングの神髄を見極める瞬間として有名なのが「漫画・巨人の星」で“打撃の神様“川上哲治が開眼する場面だ。打撃を追求する川上はある日、ピッチャーが投げたボールがホームベースで止まって見えると言った。その止まった一瞬、ボール=点をたたく。しかし、落合は違った。ピッチャーの指先、ボールのリリースポイントから到達点となるキャッチャーミットまでのボールの軌道、つまり線で捉えていた。球種にあわせてボールの軌道=線をイメージしてバットを振ると語っていた。
打球がカメラを直撃 途轍もないバットコントロール
83年、青空の川崎球場で実際に落合の打撃練習を見て仰天した。バッターボックスに入った落合。バットを高々と立てて、振る。打球は三塁ゴロ?三塁ベースに5球ほど飛んだ後、次の打球は丁度、二塁ベースの処で5球、弾む。そして次は1塁ベースへ5球。次は三遊間を抜ける打球が5球、一二塁間へ5球。レフト線に3球、センター前に3球、ライト線に3球、えっ、もしかしてと思う間もなく、落合は次の打球を左中間最深部に2球、右中間最深部に2球。そしてレフトスタンド、センターバックスクリーン、ライトスタンド、と1球ずつボールを放り込んで悠然とバッターボックスを後にした。…落合は意のままに打球を操っていたのだ。

それを証明する瞬間をテレビカメラは捉えていた。好珍プレーとして放送されたのでご記憶の方もいると思う。打撃練習をする落合をカメラは追う。

落合は「そこは危ねぇぞ」とレンズを嫌がる。

カメラマンはバッテイングゲージのつなぎ目の部分、丁度、バッターボックスの落合から見ると右手後方の地表すれすれの隙間にレンズをねじ込む。

落合「当たるぞ、そこ」

当たる訳がないと思った刹那、打球がレンズを直撃する。レンズとボールはほぼ同じ大きさだ。落合は前から来たボールを払うようにして、角度をつけて右後ろの地表すれすれにあるターゲット、レンズに当てたのだ。後日、ボールを当てられたカメラマンから聞いた。“絶対に狙っていた”と。途轍もないバットコントロールと、それに対する絶対の自信。恐るべきプレーだ。

交流戦が始まる以前、両リーグのスターの対決、真剣勝負は夢のまた夢だった。オープン戦は調整、オールスターはお祭り、日本シリーズは勝利が至上命題。巨人が9年連続日本一の頃、チーム成績はパ・リーグのBクラスながら、投手としては全盛期だった近鉄の鈴木啓示と、ONが対戦していたら、さぞやスリリングだったに違いない。遠き日のオールスターゲーム。マウンドに立つ、鈴木啓示、東尾修、そして村田兆治らの背後からは「お祭り」とはちょっと違う、パの矜持がにじみ出ている瞬間があったように思う。なにが「人気のセ、実力のパだ」と。

“神主打法・ロッテ・落合博満”と“二刀流・日本ハム・大谷翔平”がグラウンドへと向かう。戦いの舞台は、潮風と石油の臭いが混じる五月晴れの川崎球場が良い。マウンドへと向かう大谷の肩越しに隣の競輪場で打ち鳴らされるジャンが響く。ギャンブラーたちの嬌声の果てに、18.44メートルで対峙する二人。

-長い手足を伸ばして、振りかぶる大谷-

-落合はゆっくりとバット立て、静かに息を吐く-

-果たして球界屈指のバットマンはどんな風に、若武者のボールを捌くのだろうか-

-妄想が盃を追いかけては抜き、抜いては追いかけて…。

5月31日から始まる交流戦ではどのような名勝負が繰り広げられるのだろうか。酒場の片隅で、語らうドラマは終わらない。
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