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2016年2月3日17時40分

結婚・出産・ライフイベントと競技継続を考える(後編)

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時代の流れ、そして男女間の仕事(競技生活)と家庭に対する意識についての話に続き、競技生活の続行と結婚や出産というライフイベントを両立することは出来るのか? スポーツを続ける多くの女性たち、中でもアスリートとして生きる女性たちが、どのように選択をしてきたのかを30歳まで陸上・七種競技の現役選手として活動し、体育学修士として東海学園大学・スポーツ健康科学部で教員として活躍する木村華織さんに伺った。前編は こちらから。
“役割意識”と第三者によってもたらされる二者択一という道
一般の社会においても、女性の結婚、特に出産後の就業継続には家族は就業先の理解は必要不可欠なもの。中でもアスリートの世界ではその傾向がより強くみられるうえ、現在日本において実際に結婚や出産後に競技を継続している女性選手の多くが、コーチや競技関係者を夫としている。

過去に木村さんが発表した論文「女性トップ・アスリートの競技継続のための社会的条件に関する研究」によると、あくまでも海外の調査結果ではあるものの、女性選手の結婚の機会については「女性のスポーツ活動への参加は、男性選手に比べ、結婚の機会やパートナーの選択の範囲を制限する」と指摘されている。女性選手は選手やコーチ・マネージャーなど自身の競技に関わりのある人をパートナーに選ぶ傾向が男性よりも強いことが示されており、それにより競技生活をスムーズに継続可能になっているのだ。もちろん、競技(仕事)の継続は自身だけのものではなく、さらに結婚や出産というライフイベントも、自身ひとりだけで成り立つものではない。

ただ、そこに「家庭と仕事の男女間での役割意識」というものが意識的にせよ、無意識にせよ関わってくるのだとすれば、女性を取り巻く社会的環境や、男性優位社会として発展してきたスポーツ界の土壌などが相互に影響していることも考えられるのではないだろうか。
トップアスリートのみに絞り込んだ取材結果(計23名のオリンピアンへの取材による)の中で、女性選手のみが挙げた引退の理由、それが『出産・育児』と『周囲の助言』だ。
時間、体力などさまざまな面で母親の体に大きな影響を及ぼす出産・育児のみでなく、特出すべきは「周囲の助言」だ。 もちろんこれが理由の全てではなく、さまざまな要因のうちのひとつにすぎないものの、本人の意思は競技の続行を望んだとしても、もしも周囲からの助言で引退を決意する選手が存在するのであれば、それはひとつの選手の競技継続を困難にさせるひとつの阻害要因になりうるのではないだろうか……
しかしながら、多くのアスリートたちがスポーツと家庭を両立してきているという事実もある。彼女たちがどのように競技生活や引退後もスポーツと関わってきたのか、時代を追って見てみよう。
家庭とスポーツ指導者の「両立」
1932年ロサンゼルス・36年ベルリン大会に出場した水泳の前畑秀子(兵頭秀子)さん。ベルリン大会では日本人女性として初めて金メダルを獲得した。37年に結婚し、引退。家事や育児の合間をぬって講演会や水泳教室の講師を行い、一生涯にわたりスポーツの指導者として生きた。
家庭とスポーツ選手の「両立」
日本で初のママさん選手といわれている体操の池田敬子さんは、3度のオリンピックに出場。2度目の出場となる60年ローマ大会後、2人の子供を出産し、64年の東京大会にも出場。当時、「おかあさん選手登場」として新聞にも取り上げられた。
競技も育児もチームで!
オリンピックに5大会連続で出場したスケートの岡崎朋美さんのチームは、本人、コーチ、マネージャー兼ベビーシッター、そして娘の4人体制。2010年、39歳で出産後は練習中以外は自ら育児を行っていた(13年に現役を引退)。
協会の協力でベビーシッターを同行
03年と07年、2度のワールドカップ、そして04年のアテネ大会に出場したサッカー宮本ともみさんは、育児を誰かに任せてまで競技はできないという考えで競技生活を続けた。日本サッカー協会の費用負担もあり、育児を手伝う母親と子供を海外遠征に帯同。国内の合宿と試合では、ベビーシッターを協会が雇った。(12年に現役を引退)
“性別役割規範”を超えた2人のオリンピックアスリート
ビーチバレー・佐伯美香さん
96年アトランタ大会にバレーボールで、00年シドニー大会にビーチバレーでオリンピック出場後、02年に出産を経て活動を再開。08年のの北京大会にも出場した。オリンピックの前年は海外遠征が続き、自宅にいたのは2ヶ月足らずだったそう。留守の間は夫が幼稚園の送り迎えや弁当作りなどを行った。

陸上・赤羽有紀子さん
06年の出産後、1ヶ月で練習を再開し、08年の北京大会、09年世界選手権に出場した赤羽さん。元陸上選手の夫、赤羽周平さんはコーチとして赤羽さんを支えた。洗濯以外の家事・育児は基本的に夫でコーチの周平さんの役割。睡眠時間確保のため娘を夫に託し寝室を分け、子供も合宿に同行。(13年に現役を引退)

さまざまなサポートと共に競技生活を続ける選手たち。家族の役割、自身の社会的な役割は個・パートナー・家族構成や環境・文化によっても異なるもの。スポーツ界だけでなく、社会において、ライフイベントと自身の仕事(競技)の両立を叶える方法を二者択一だけにしないためには、女性のライフスタイルの多様化、すなわち男性のライフスタイルの多様化も必須だ。

07年10月20日の朝日新聞に、佐伯美香さんのインタビューが載っている

「以前は、一緒に居てあげられない我が子への罪悪感に苦しんだ。今は自分が夢を持てば、子供に言えを持つことの大切さを教えることにつながるのだと思えるようになった」

競技者としても、妻としても、そして母としても生きる。多くの選択肢を得ることは、第三者の意見を聞きすぎず、規範にとらわれずに自身の希望する道をまずは探してみることが大切だ。

【取材を終えて】
“スポーツは生活を豊かにする文化”であると認識している者として、一般社会以上に女性にとって仕事(競技)を続けることの大変さに触れ非常に驚きを感じた。もちろん、自身の体が基本となるアスリートと、そのほかの多くの仕事では、ライフイベントと仕事(競技)の両立の大変さは異なるだろう。ただ、取材を通じ、自分の意識の中でも「出産してスポーツを続けるのは大変そうだな」と感じていた部分があったことに気付かされたのだ。もしかしたら、これは大きな枠の中では木村さんのいう「第三者による周囲の助言」のひとつなのかもしれない。

私たちの意識やほんの少しのアドバイスめいた何かが、選手やスポーツを続けたいと希望している多くの人にとって、結婚・出産を躊躇させる要因のひとつになっているとしたら、それは決して「良い」ことではないと思う。二者択一ではない選択を後押しできるよう、スポーツを愛する全ての人たちが、アスリートの支えになるような意識の変革を、まずは自分から行ってみよう。

取材・文/今牧 潤
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